千葉‧⾹取市佐原の動物病院「オリーブペットクリニック」2014年12⽉開院!

オリーブペットクリニック

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感染症

  • 猫のトリコモナス症

    概要

    猫のトリコモナス症は、Tritrichomonas suis(=Tritrichomonas foetus、トリコモナス・フィータス)といわれる原虫が小腸や大腸に寄生し、慢性の下痢を引き起こす感染症です。主に1歳齢以下の子猫で発症し、成猫でも不顕性(下痢を起こさず)に感染していることがあります。

     


    病原体

     

     


    感染経路

    トリコモナスは猫の小腸(回腸)、大腸(盲腸・結腸)で増殖し、一部が糞便中に排出されます。猫の体内を離れても、条件が整っていると5日間ほど生存しており、この間に他の猫の体表に付着し、グルーミングの際に経口感染すると考えられています。

    若齢時に多頭飼育を行っている環境下で感染し、2カ月~2年で自然に治癒することもありますが、その後、キャリア(=症状はないが、病原体を排出し続ける)となってその環境下での感染源となってしまう猫もいます。

     


    糞便検査

    成猫でもトリコモナスが認められることがありますが、圧倒的に1歳齢以下の子猫から検出されることがほとんどです。雑種猫より純血種の感染率が高いとの報告もあり、生まれた時から外に出たことがなくても感染していることは十分あり得ます。

     


    症状

    主に若齢猫に、慢性の大腸性下痢を引き起こし、下痢になったり治ったりを繰り返します。無症状、排便回数の増加、軟便、下痢など様々です。しばしば悪臭のある下痢便で、ときおり粘液鮮血が混じります。

     


    治療

    現在、トリコモナス原虫に対する有効な薬剤はロニダゾールのみといわれており、一般的な抗原虫薬であるメトロニダゾール(商品名:フラジール)は無効とされています。しかし、メトロニダゾールの投薬により下痢の症状が軽減することも少なくはありません。

    ロニダゾールは国内では認可されておらず、海外からの輸入が必要なため入手がやや困難なことと、副作用として神経毒の報告もあるため、投薬の際には猫を注意深く観察する必要があります。ロニダゾールを処方する場合、鳥の       粉剤しかありません。投薬期間は2週間ですが、1回の粉の量がかなり多いため、猫への投薬は実際にはかなり大変だと思われます。ロニダゾール投薬後も下痢が再発することもあります。

     


    予防

    若齢時に繁殖施設や保護施設などの多頭飼育環境下で感染し、無症状の猫もキャリアとなって伝播することが考えられるため、若齢時から完全に個別飼いすることによって予防が可能ですが、譲り受けた際にはすでに感染していることも少なくありません。

     

  • 猫白血病ウイルス感染症(FeLV)

    概要

    主に感染猫の唾液を介して猫同士で伝播する感染症で、ウイルスに感染後、ウイルスを体内から排除できずに持続性ウイルス血症となった感染猫は、リンパ腫や白血病などをはじめとした様々な疾患を発症することがあり、その多くが致死的な経過をたどる予後不良の感染症です。


    感染経路

    ウイルスは感染猫の唾液、糞便、尿、鼻汁中に存在するウイルスによって伝播します。特に猫同士のケンカによる咬傷や舐め合いによって感染することがほとんどで、主に唾液を介して感染します。経乳感染・胎盤感染、食事や食器の共有による感染もあり得ます。また、生後FeLV抗原陽性の母猫が子猫を舐めることによっても高率にウイルスが伝播します。

     


    感染タイプ

    感染タイプは大きく3つに分けられ、それにより予後が大きく異なりますが、どのタイプで感染するかはそれぞれの猫の免疫能によると考えられます。

    ざっくりとした傾向としては、子猫のうちに感染した場合は持続感染となり予後不良、成猫になってから感染した場合は一過性感染、潜伏感染となり予後良好の傾向があります。

    ①持続性ウイルス血症(持続感染猫)

    生後4カ月以内に感染すると、高率に持続性ウイルス血症を起こし、持続感染猫となります。成猫でも様々な要因によって免疫能が低下している時に感染した場合、持続感染が成立することもあります。

    持続性ウイルス血症となった感染猫は、FeLVに関連した様々な疾患を発症することがあります。

    ある報告では6週齢以下の子猫で70~100%、8~12週齢では30~50%、1歳以上では10~20%の猫が持続感染猫になるとの報告があります。

    一過性感染(体内からのウイルス排除)

     感染初期に有効な免疫応答が体内ではたらいた場合には、ウイルスを体内から完全に排除することができます。その結果、ウイルス検査では陰転し、FeLV関連の疾患の発症は認められず、新たなFeLVの暴露に対しても抵抗性(感染しにくくなる)を獲得します。

    一過性のウイルス血症は1~16週間続き、16週間以上ウイルス血症がみられる猫は持続感染と考えられます。

    ③潜伏感染

    持続感染成立の場合と同様に骨髄までの感染が成立した後、ある程度の免疫応答によってウイルスが排除され、検査は陰転しますが、ウイルスは骨髄やリンパ節の染色体にプロウイルスとして組み込まれ潜伏感染しています。

    その後、潜伏感染のままでいることもありますが、免疫応答が優勢になった場合にはウイルスを完全に排除することもあり、一方、出産などのストレスやストロイド剤の投与などによってFeLVの増殖が活発化し、持続感染となってしまうこともあります。

     


    症状

    FeLVが感染した初期には、発熱や白血球減少症などの骨髄抑制が認められることがあります。この症状は1週間程度とされていますが、輸液療法や抗菌薬投与といった対症療法のみで軽快することも多くウイルス感染も成立しないこともあります。

    しかしその後、持続性ウイルス血症となってしまった場合、どのような病気や疾患を引き起こすかを予測することはできません。しかし、最も認められる症状は造血器系腫瘍、免疫抑制、貧血です。また、持続性ウイルス血症であっても発症せずに無症候キャリアのままでいる場合もあります。

    造血器系腫瘍

    FeLVによって引き起こされる造血器系腫瘍のうち、最も代表的なものがリンパ腫です。

    前縦隔型リンパ腫はリンパ腫のうち最も頻度が高く、胸腔内で心臓の前部(頭側)のリンパ節が腫瘍化して巨大になり、心臓や肺を重度に圧迫し、呼吸困難や胸水貯留などを引き起こします。生後間もない子猫のうちに感染して持続性ウイルス血症になった猫は1~2歳前後で発症することも少なくありません。

    免疫抑制

    免疫抑制の状態になると、他の病原体に感染する可能性があります。慢性口内炎慢性鼻炎を起こすこともあります。

    貧血

    FeLVによる貧血は、ほとんどの場合がウイルスによる骨髄抑制効果によって引き起こされる非再生性貧血(再生不良性貧血)で、治療への反応は乏しく予後不良です。まれ(約10%)に治療に反応を示す再生性の貧血が認められることもあります。

    FeLVに関連した貧血として、猫ヘモプラズマ症という感染性の再生性貧血や、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)を起こすこともあります。

     


    検査

    FeLVの診断には血液中のFeLV抗原を検出する院内検査キットが普及しています。少量の血液を採血し、検査キットにかけることで10分ほどで結果が出ます。

    *抗原検査の注意点*

    ①咬傷などによる感染初期(4~6週間)ではウイルス抗原が検出されないため、感染猫に咬まれてすぐに検査しても偽陰性となってしまいますので、感染の可能性がある猫ではできれば受傷後2カ月程度(FIVの同時感染の可能性もあるため)の期間をあけて検査を行う必要があります。

    FeLV陽性の判定が出た場合、予後の予測のためにも16週間(約4カ月)後に再検査を行い、持続性ウイルス血症なのかどうかを確認することが望まれます。

     


    治療

    ①抗ウイルス療法

    インターフェロンω(インターキャット)の投与によって症状の改善が認められるとの報告があるが、効果は確実とは言えません。

    ②対症療法

    FeLVによる何らかの疾患を伴う場合は、それぞれの疾患に対しての対症療法を行います。

    例えば代表的なものとして、前縦隔型リンパ腫を呈した感染猫には多剤併用による抗癌剤治療を考慮します。抗癌剤の投与により腫瘍が縮小し、呼吸状態がかなり改善することも少なくありませんが、効果は永久的ではなく、いつか必ず再発はします。当院では半年間の抗癌剤治療を行い、その後数年再発しなかった例もありますが、数カ月後にすぐに再発した例もあり、再発までの期間は個体差によります。

    慢性口内炎を示す感染猫には、抗炎症作用や食欲増進を期待してステロイドの投与や、二次感染防止として抗菌薬の投与などを検討します。

     


    FeLV感染猫の管理

    ・多頭飼育をしている場合、できれば全頭のウイルス検査を行い、陽性猫と陰性猫を別々に隔離して飼育することが好ましいです。ウイルス血症が認められた猫(陽性猫)が、陰転(再検査で陽性から陰性に変わった)した場合は、ウイルスは骨髄やリンパ節の染色体にプロウイルスとして潜伏感染して存在しています。すなわちウイルスが完全に猫体内から排除されたとは考えません。この潜伏感染している猫の血液を輸血すると、輸血された猫ではウイルス血症となります。潜伏しているウイルスは再活性することがあるため、陰転した感染猫が多頭飼育環境やストレス、何らかの疾患によってFeLVを産生するようになるかもしれません。したがって、陰転した感染猫も非感染猫と一緒に飼育すると、いつのまにか陰転猫が陽性猫となり、ウイルスを蔓延させてしまう危険性があります。

    ・FeLVに感染している猫では他の感染症に罹患しやすくなっているため、屋外へ出さないようにしましょう。

    ・感染猫は定期的に健康診断を行い、体調をチェックしましょう。

     


    FeLVワクチン(5種混合ワクチンに含まれる)

    FeLV陰性の猫を完全室内で飼育している場合はFeLVに感染することはありません。屋外に出ることがある場合は、ウイルス暴露を受ける可能性があるので5種混合ワクチンを検討します。ただしワクチン接種によってウイルス感染を完全に防げるわけではありません。ワクチン接種を行う場合はウイルス検査によりFeLV感染の有無を確認し、FeLV感染が認められる場合はFeLV感染防御を目的としたワクチンは接種しません。

    すでにウイルス血症になっている猫にワクチンを接種しても発症を抑制したり、生存期間を延長するなどのメリットはありません。

     


    消毒

    ウイルスは猫の体内から離れるとすぐに失活します。石けん、消毒薬、熱、乾燥などにより容易に感染性を失います。

     

  • 猫免疫不全ウイルス感染症(FIV;猫エイズウイルス感染症)

    概要

    猫免疫不全ウイルス(FIV)は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)と近縁のウイルスです。FIVは人に感染することはありません。

    FIVは一度猫に感染すると、終生体内から消失することはありません

    FIV感染猫は、慢性的な口内炎・歯肉炎慢性鼻炎、リンパ節症、体重減少などの症状を示すことが少なくありませんが、中にはウイルスに感染しても数年間何の症状もみられない場合や、発症しない猫もいます。

    FIVに感染した猫でも、適切に健康管理してあげることで非感染猫と同様に長生きすることも可能です。

     


    感染経路

    FIVは、感染猫の唾液、血液、乳汁、精液などに存在します。ほとんどの場合、猫同士のケンカなどによる咬傷により感染します。咬傷にはオス猫との交尾中の咬傷感染も含まれます。

    感染猫との食器の共有などによる経口感染もあり得ますが、FIVウイルスは猫の体から離れると乾燥などにより容易に失活するため、感染猫が食べた食器をすぐに他の猫が舐めるといった行為を日常的に行わない限り、すぐに感染するわけではありません。

    また、まれですが妊娠・授乳中の経乳感染や胎盤感染もあり得ます。特に母猫が急性感染している場合はウイルス量が多い状態のため、垂直伝播が起こる可能性があります。

     


    FIVによる病期

    FIVは、①急性期(AP)、②無症候キャリア期(AC)、③持続性全身性リンパ節症期(PGL)、④エイズ関連症候群期(ARC)、⑤後天性免疫不全症候群期(AIDS)の5つの病期に分けられます。

    ①急性期(AP)

    感染から8~12週間で血中ウイルス量がピークに達します。この期間中に一時的に食欲不振、沈うつ、発熱、白血球減少、貧血、下痢などの症状がみられることがありますが、その後は正常に戻ります。しかし、全身のリンパ節腫大(リンパ節症)は数週~数カ月の間、持続する場合があります。

    ②無症候キャリア期(AC)

    AC期では血中ウイルス量の減少がみられます。この時期は免疫によってウイルスの増殖がコントロールされるため、症状はありません。AC期は数年~生涯において持続すると考えられます。中にはFIVに関連した症状を何も示さず寿命を全うする猫もいます

    ③持続性全身性リンパ節症期(PGL)

    この時期があまり明確にわからないこともありますが、全身のリンパ節腫大が認められます。数カ月~1年ほど持続するといわれています。

    ④エイズ関連症候群期(ARC)

    この時期には免疫異常に伴う症状が現れ、口内炎・歯肉炎、上部気道炎、消化器症状、皮膚病変などがみられることがあります。数カ月~数年程度持続するといわれています。

    ⑤後天性免疫不全症候群期(AIDS)

    FIV感染症の末期で、免疫不全による症状として、各種の日和見感染、貧血、腫瘍、重度の体重減少や衰弱などがみられます。

     


    検査

    FIVの診断には血液中の抗FIV抗体を検出する院内検査キットが普及しています。少量の血液を採血し、検査キットにかけることで10分ほどで結果が出ます。

    *抗体検査の注意点*

    ①猫がウイルスに暴露され感染が成立してから抗体が産生されるまでには約1~2カ月かかります。そのため、感染猫に咬まれてすぐに検査しても偽陰性となってしまいますので、感染の可能性がある猫ではできれば受傷後2カ月程度の期間をあけて検査を行う必要があります。

    幼猫のウイルス検査でFIV陽性の判定が出た場合、母猫がFIVに感染していると、生後12週齢程度まではその母猫からの移行抗体の残存による抗FIV抗体を拾っている可能性があります。そのため、6カ月齢以上で再度検査を行い、陰性に変わっていれば移行抗体の影響(本人は感染していない)、陽性であれば本当にその猫がFIVに感染している可能性が考えられます。

    ③FIVワクチンを接種した猫では、当然ながら抗FIV抗体が産生されるので、検査キットでも陽性となります。そのため、FIVワクチンを接種する前に事前にウイルス検査を行っておく必要があります。

     


    治療

    ①抗ウイルス療法

    原因治療(抗ウイルス療法)については様々な研究が行われているが、FIV感染症に関しては積極的に臨床応用されていないのが現状である。これまでに報告されているFIV感染症に対して有効であると思われる抗ウイルス薬の多くは逆転写酵素阻害剤であり、作用機序はウイルス複製の初期の過程を阻害することにある。ジドブジン(アジドチミジン、AZT)が用いられることもあるが、骨髄抑制がみられることがあるため注意が必要である。(当院ではまだ使用したことはありません。)また、インターフェロンω(インターキャット)の投与により、生存期間の延長がみられたとの報告もありますが、その作用機序は不明であり、確立された治療とはいえません。

    ②対症療法

    口内炎や歯肉炎に対しては、抗炎症効果を目的としたステロイドの使用と二次感染防止のための抗菌薬の投与などを行います。それ以外も、それぞれの症状や原因に応じて、対症療法を行います。

     


    FIV感染猫の管理

    ・FIVに感染している猫では他の感染症に罹患しやすくなっているため、屋外へ出さないようにしましょう。

    ・他の健康な猫へFIVを広めないようにするため、感染猫は隔離して飼育することが推奨されます。

    ・未去勢・未避妊のFIV感染猫には不妊手術を行うことが望まれます。

    ・感染猫は6カ月ごとに健康診断を行い、体重減少がないかチェックしましょう。血液検査や尿検査なども定期的に行うことが推奨されます。

     


    FIVワクチン

    子猫では8週齢以降で初回接種し、2~3週間ごとに計3回接種します。その後は1年に1回の追加接種を行います。成猫に関しても同様のプログラムで接種します。

     


    予防

    ・FIVへの接触を防ぐ。FIVの伝播力はさほど強くありませんので、猫同士のけんかに巻き込まれることがなければ感染するリスクは低いといえます。

    ・猫を室内で飼育すること、新しい猫を導入するときには感染の有無を確認すること、また感染リスクのある猫では再度感染の有無を確認することが重要です。

    ・屋内飼育や、野良猫との接触をなくすために避妊・去勢手術を行うのも有効かもしれません。

     


    消毒

    FIVウイルスは猫の体を離れると失活します。石けん、各種消毒薬、熱、乾燥などにより容易に感染性を失います。

     

     

  • 猫コロナウイルス感染症・猫伝染性腹膜炎(FIP)

    要約


    猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルス感染が原因となって起こる免疫介在性の疾患で、特に集団飼育施設でよく認められます。ほとんどの猫は誕生後すぐに猫コロナウイルスに暴露しますが、そのほとんどは、無症状もしくは軽度の腸炎を示すのみです。

    しかし、一部の猫、特に若齢の猫や多頭飼育環境下の猫では、猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症することがあります。

    FIPを発症してしまうと有効な治療法は未だ確立されておらず、致死率はきわめて高いです。猫コロナウイルス感染猫のうち、12%程度がFIPを発症します。

    FIPを発症する要因として、猫コロナウイルス感染猫へのストレスがきっかけと考えられており、それにより猫コロナウイルス猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)に変異を起こすと考えられています。

     

     

    感染


    FIPの発症要因となる猫コロナウイルスの感染源は主に糞便です。つまり、猫用トイレが主に感染場所となります。唾液中に猫コロナウイルス遺伝子が検出されることがあるので、食器の共有には注意が必要ですが、実際には食器の共有によって感染することはほとんどありません。ですが、一応念のため、食器は別にしておきましょう。

    猫コロナウイルスに感染した猫と一緒に住んでいる場合(特にトイレを共有している場合)、ほぼすべての猫が猫コロナウイルスに感染します。

    猫コロナウイルス感染猫の9頭に1頭(約12%)は、致死性の疾患であるFIPを発症します。

     猫コロナウイルスは、屋外や多頭飼育施設などありとあらゆるところで感染する可能性があり、実はほとんどの猫が一度は猫コロナウイルスに曝露したことがあるといっても過言ではありません。そのため、多くの健康猫が猫コロナウイルス抗体陽性を示しますが、ほとんどの猫はFIPを発症しません。つまり、猫コロナウイルスに感染しても、FIPを発症するとは限りません。また、便中に排出される猫コロナウイルスも陰転する(検出されなくなる)こともよくあります。

    多頭飼育環境においてFIPが発生してしまった場合には、その集団でのFIP発症率も極めて高くなるという報告がある一方、、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)は糞便中に排出されることもなく、FIPは猫から猫への感染(水平伝播)は起きにくく、集団内でFIPが流行することはないとの記載もあります。(もしFIPが水平伝播するとしたら、猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)の感染が関与しているかもしれません。) 

    FIPの発症要因となる猫コロナウイルスに感染しないように気を付けることでFIP発症を回避できるとされていますが、猫コロナウイルス感染猫と一つ屋根の下に暮らしている以上はほぼ感染は免れないため、多頭飼育下に一頭でも猫コロナウイルス感染猫がいる場合、現実的に他の猫が猫コロナウイルスへの感染を回避することは厳しいといえます。

     

    FIPV体内変換説


     猫コロナウイルスのうち、胃腸炎を起こす猫腸コロナウイルス(FECV)が、ストレスが引き金となって、致死性の病原体である猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)に病原性変異を起こすといわれています。 

    猫コロナウイルスに持続感染した猫がストレスを受けてから3~6週間後にFIPを発症し始めることが多いそうです。従って、ストレス要因を減らすことはFIPの発症をコントロールするうえで重要とされますが、ストレスを減らすと一口に言っても相手が猫である以上、なかなか実際には難しいところがあります。

    猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)などの重複感染による免疫抑制も、FIP発症率を高める原因となります。

     

    好発年齢


    猫の年齢もFIP発症に関わる重要な要因です。

    FIP発症猫の約70%が1歳齢未満の猫といわれています。しかし、高齢の猫でもFIPを発症することはあります。

     

    症状


     FIPの病型は、多発性漿膜炎(腹腔や胸腔の浸出液貯留)と血管炎を特徴とするウェットタイプ(滲出型)と、各臓器における多発性肉芽腫性病変を特徴とするドライタイプ(非滲出型)の2つがあります。

     ウェットタイプの方が進行が速く、診断後、2週間~1カ月程度で亡くなってしまうことも少なくありません。

    一般的な症状としては、抗生物質に反応しない発熱、沈うつ、食欲不振、体重減少、黄疸(白目や歯茎が黄色くなる)、おなかがふくれる、などが認められます。

    ウェットタイプで胸水貯留が認められる場合は、呼吸困難を示します。

    ドライタイプではどの臓器に病変が認められるかによって症状が異なります。腎臓に病変が形成された場合は腎腫大、消化管に形成された場合は嘔吐や下痢などの症状がみられます。また、ドライタイプでは、眼病変、すなわち、虹彩の色調変化、瞳孔異常、失明、前眼房出血などがみられることがあります。

    まれに起立困難、痙攣発作、知覚過敏、行動異常などの神経症状を示すこともあります。

     

     

     

     

     

     

     

    診断


    FIPの生前診断は困難といわれていますが、ウェットタイプの場合は針吸引にて採取した胸水や腹水の性状やその液体中の猫コロナウイルスの存在の有無と、症状、血液検査所見、猫コロナウイルス抗体価などの所見を総合してほぼ確定診断がつきます。このとき採取した胸水や腹水が黄色を呈していることが多いです。

    ドライタイプの場合は超音波検査で肉芽腫性病変がはっきりと確認できれば、その病変に針吸引生検を行い、そのサンプル中の猫コロナウイルスの存在の有無を調べることで診断がつくこともありますが、肉芽腫性病変が確認できない場合は、診断が困難なこともあります。

     

    治療


    現状、FIPに対して有効な治療法は未だ確立されていません。ステロイドの投与を中心とした対症療法が行われることが多いですが、決して有効とは言い難いものです。

    他にも、トロンボキサン合成阻害薬、ステロイド+インターフェロン療法、シクロスポリンの高用量投与などが検討されていますが、どれも確固たる有効なデータは得られていません。

    治療開始3日以内に何らかの改善が認められない場合、それ以上の治療効果は期待できないという報告もあります。

     

    ワクチン


     FIPウイルスに対するワクチンはこれまで数多く研究されてきましたが、残念ながら有効なワクチンが確立されていないのが現状です。

     

    予後


    残念ながらFIPは今のところ不治の病で、FIP発症後の予後は不良です。特に、ウェットタイプの場合は進行が速く、診断後、数日~数週間で亡くなってしまうことも少なくありません。

    一方、ドライタイプの場合、神経症状などが発現する前に診断・治療されれば1年間ほど延命できることもあります。

     

    消毒


    猫コロナウイルスは、猫の体外では比較的弱く、アルコール、クロルヘキシジン、次亜塩素酸、家庭用漂白剤、洗剤などですぐに死滅・失活されます。

    しかし、乾燥した環境下では7週間失活しません。この間には、猫用トイレ、靴、手や服を介して間接的に感染する可能性がありますので、徹底的に消毒を行いましょう。

     

    FIPを発症してしまった猫ちゃんの飼い主様へ… 」

    FIPは純血種の若齢猫にも一般的にみられる疾患です。ペットショップから購入し、初めて猫を家族に迎え入れ、これからという時期にFIPが発覚し、成す術もなく、まもなくして亡くなってしまう、ということが実際にあり得る恐ろしい病気です。  

    うちに連れて来てストレスを与えてしまったせいでFIPを発症してしまったのか…、それはちがいます。

    おそらくどのおうちに行ってもFIPを発症していたことでしょう…。

    それなのに何かの縁があってあなたのおうちに来た。あなたの家族になった。

    自分を責めないでください。

    反対に、「うちに来てよかったね」と思えるくらい、たくさん愛してあげてください。

    それがきっと、その猫ちゃんが生まれてきた意味なのですから…。