千葉‧⾹取市佐原の動物病院「オリーブペットクリニック」2014年12⽉開院!

オリーブペットクリニック

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動物の病気について

病気を抱えてしまったペットの飼い主様、
まだペットは元気だけどもしも何か病気をしてしまったときに備えての知識や⼼構えなどいろいろ知っておきたい飼い主様のために、動物の病気について記事をまとめていきます。

  • 子宮蓄膿症

    子宮蓄膿症(しきゅうちくのうしょう)とは

    子宮内への大腸菌などの細菌感染による子宮内膜炎を起こして子宮内に膿液が貯留し、やがて全身的な感染症を起こす命に関わる疾患です。通常6~7歳以上の避妊手術を行っていないワンちゃんで、発情(生理)から1~2ヶ月後に発症します。まれに若い年齢でも発症することがあります。

    犬は人のような閉経がなく、寿命がくるまで卵巣が機能しているため、生涯、この子宮蓄膿症を発症する可能性があります。高齢犬になるほど発情徴候がわかりづらくなり、発情が来ていたことに家族が気づかないことも多いため、気がついたら子宮蓄膿症を発症していたということもあり得ます。

    子宮蓄膿症は、子宮頸管という子宮の根元にある構造が開いているか閉じているかによって、開放性と閉塞性に分類され、開放性では血液や膿などの分泌物が陰部から排出されますが、閉塞性では陰部からの分泌物はみられず子宮がパンパンになるほど中に膿をため込むため、閉塞性の方が重篤化しやすいです。


    ホルモンの影響

    子宮蓄膿症の発症要因には、エストロジェン(卵胞ホルモン)プロジェステロン(黄体ホルモン)のホルモンが深く関与しています。

    エストロジェン(卵胞ホルモン)は排卵前に血中への分泌量が増え、排卵後はエストロジェンの分泌量は減り、プロジェステロン(黄体ホルモン)の分泌量が増えます。排卵後は妊娠の有無に関わらずプロジェステロンの分泌が長期間(約2ヶ月間)持続します。

    プロジェステロンは子宮内膜を増殖させ、子宮腺の発達により豊富な分泌液が産生され子宮腺腔内を満たします。また、プロジェステロンは子宮筋の自発運動の抑制および子宮頸管の緊縮を起こし、子宮内腔を閉鎖・隔離してしまううえに、プロジェステロンが分泌されている期間は子宮内での白血球反応が抑制されます。これらのことは子宮内での細菌の増殖に適した環境をつくってしまいます。


    原因菌

    膿液中に検出される細菌のほとんどが大腸菌であることが知られています。病状の進行には大腸菌の産生するエンドトキシンという毒素が深く関与しており、子宮に分布している血管から血液中にエンドトキシンが流入し、全身に回って中毒症状を引き起こします。


    症状

    食欲不振、元気消失、発熱、多飲多尿、外陰部から血膿などの分泌物排出、腹部の膨満、嘔吐、下痢などがみられます。

    外陰部からの排膿は閉鎖性子宮蓄膿症ではみられません。閉鎖性の方が開放性よりも中毒症状が重い傾向にあり、敗血症、腎不全、膵炎、DIC(播種性血管内凝固)などを引き起こしていると手遅れの場合もあります。


    診断

    血液検査:白血球数の増加、CRP(炎症マーカー値)の上昇

    エコー検査:子宮内の液体貯留

    X線検査(撮らないこともある):腹腔内の腫大した占拠性構造物

    などから子宮蓄膿症と判断します。


    治療

    ①手術

    第一選択は卵巣および腫大した子宮の摘出手術です。

    麻酔のリスクはゼロではありませんが、手術が無事成功すればその後の救命率は90%以上とかなり高いです。手術後もすでに全身に回ってしまっている細菌感染や、大腸菌の産生するエンドトキシンという毒素の影響が消失するまでは油断はできません。そのため術後も抗生物質の投与と輸液療法をしっかり行い、順調にいけば約2~3日ほどで退院できます。

    手術前の時点ですでにきわめて重度の感染が起こっており、血液検査で白血球数の上昇以外に血小板値の減少がみられ、敗血症やDIC(播種性血管内凝固)という状態に陥ってしまっている場合は、手術の成功に関わらず、入院期間中に亡くなってしまう可能性も十分に考えられます。

    ②内科治療

    内科的治療は抗生物質、プロスタグランジン製剤、プロジェステロン受容体拮抗薬、抗プロラクチン薬などを用いた治療がありますが、いったん症状が改善しても発情が来るたびにまた再発する可能性が高いこと、治癒までに時間がかかることなどから、よほど高齢か麻酔をかけられない基礎疾患がない限りは通常は外科治療が選択されます。

    1)プロスタグランジン製剤(クロプロステノール)

    子宮平滑筋収縮作用により子宮内に貯留している膿液の排出を促し、さらに黄体退行作用により子宮内環境が変化して細菌増殖が抑制されます。また、血中プロジェステロン濃度の低下により子宮頸管のロックが解除されることも、排膿が促される要因となります。

    投与後は一過性に嘔吐、呼吸促迫、流涎、下痢、血圧上昇、心拍数増加、体温低下などの副作用が報告されており、中~重度の心臓疾患のある犬では死亡のリスクもあるため使用できません。また、閉鎖性子宮蓄膿症では子宮平滑筋収縮作用が強く現れると子宮破裂を起こす危険性があるため、使用には注意が必要です。低用量から投与を開始し、子宮頸管が解放してから投与量を増やすことで閉鎖性子宮蓄膿症でも治療が成功したという報告もあるようです。

    副作用はだいたい1~2時間以内に起こり、4時間後には消失するため、投与後はなるべく入院により様子を観察する必要があります。副作用を軽減するため2~3回に分けて少量ずつ投与する少量分割投与が推奨されています。

    2)プロジェステロン受容体拮抗薬(アグレプリストン、商品名:アリジン)

    プロジェステロン受容体拮抗薬の投与により、子宮内の環境を黄体期から脱し、細菌の増殖を抑制し、プロジェステロンの支配を受けていた子宮頸管を弛緩させロックを解除します。これにより排膿が促されます。

    プロスタグランジン製剤を使用することのできない心臓疾患を抱えた犬や、閉鎖性子宮蓄膿症の場合でも投与が可能です。

    最大の欠点は、国内での入手が困難ということです。

    (※プロジェステロン受容体拮抗薬を用いた内科治療は当院では行っておりません。)

    3)抗プロラクチン薬(カベルゴリン、商品名:カバサール)

    脳下垂体から分泌されるプロラクチン(黄体刺激ホルモン)は黄体に作用してプロジェステロンの分泌を促します。そのため、抗プロラクチン薬を投与すると黄体が退行します。

    カベルゴリンはまれに(3%ほど)嘔吐がみられる以外に副作用がないため安全に投与することができます。

    欠点は単独投与だと完全に黄体が退行するまでに時間がかかることです。低用量(1μg/kg)のプロスタグランジン製剤との併用投与により黄体退行期間が短縮されます。

    ※遠方からの電話のみのご相談は遠慮させて頂いております

  • 猫のトリコモナス症

    概要

    猫のトリコモナス症は、Tritrichomonas suis(=Tritrichomonas foetus、トリコモナス・フィータス)といわれる原虫が小腸や大腸に寄生し、慢性の下痢を引き起こす感染症です。主に1歳齢以下の子猫で発症し、成猫でも不顕性(下痢を起こさず)に感染していることがあります。

     


    病原体

     

     


    感染経路

    トリコモナスは猫の小腸(回腸)、大腸(盲腸・結腸)で増殖し、一部が糞便中に排出されます。猫の体内を離れても、条件が整っていると5日間ほど生存しており、この間に他の猫の体表に付着し、グルーミングの際に経口感染すると考えられています。

    若齢時に多頭飼育を行っている環境下で感染し、2カ月~2年で自然に治癒することもありますが、その後、キャリア(=症状はないが、病原体を排出し続ける)となってその環境下での感染源となってしまう猫もいます。

     


    糞便検査

    成猫でもトリコモナスが認められることがありますが、圧倒的に1歳齢以下の子猫から検出されることがほとんどです。雑種猫より純血種の感染率が高いとの報告もあり、生まれた時から外に出たことがなくても感染していることは十分あり得ます。

     


    症状

    主に若齢猫に、慢性の大腸性下痢を引き起こし、下痢になったり治ったりを繰り返します。無症状、排便回数の増加、軟便、下痢など様々です。しばしば悪臭のある下痢便で、ときおり粘液鮮血が混じります。

     


    治療

    現在、トリコモナス原虫に対する有効な薬剤はロニダゾールのみといわれており、一般的な抗原虫薬であるメトロニダゾール(商品名:フラジール)は無効とされています。しかし、メトロニダゾールの投薬により下痢の症状が軽減することも少なくはありません。

    ロニダゾールは国内では認可されておらず、海外からの輸入が必要なため入手がやや困難なことと、副作用として神経毒の報告もあるため、投薬の際には猫を注意深く観察する必要があります。ロニダゾールを処方する場合、鳥の       粉剤しかありません。投薬期間は2週間ですが、1回の粉の量がかなり多いため、猫への投薬は実際にはかなり大変だと思われます。ロニダゾール投薬後も下痢が再発することもあります。

     


    予防

    若齢時に繁殖施設や保護施設などの多頭飼育環境下で感染し、無症状の猫もキャリアとなって伝播することが考えられるため、若齢時から完全に個別飼いすることによって予防が可能ですが、譲り受けた際にはすでに感染していることも少なくありません。

     

  • 猫白血病ウイルス感染症(FeLV)

    概要

    主に感染猫の唾液を介して猫同士で伝播する感染症で、ウイルスに感染後、ウイルスを体内から排除できずに持続性ウイルス血症となった感染猫は、リンパ腫や白血病などをはじめとした様々な疾患を発症することがあり、その多くが致死的な経過をたどる予後不良の感染症です。


    感染経路

    ウイルスは感染猫の唾液、糞便、尿、鼻汁中に存在するウイルスによって伝播します。特に猫同士のケンカによる咬傷や舐め合いによって感染することがほとんどで、主に唾液を介して感染します。経乳感染・胎盤感染、食事や食器の共有による感染もあり得ます。また、生後FeLV抗原陽性の母猫が子猫を舐めることによっても高率にウイルスが伝播します。

     


    感染タイプ

    感染タイプは大きく3つに分けられ、それにより予後が大きく異なりますが、どのタイプで感染するかはそれぞれの猫の免疫能によると考えられます。

    ざっくりとした傾向としては、子猫のうちに感染した場合は持続感染となり予後不良、成猫になってから感染した場合は一過性感染、潜伏感染となり予後良好の傾向があります。

    ①持続性ウイルス血症(持続感染猫)

    生後4カ月以内に感染すると、高率に持続性ウイルス血症を起こし、持続感染猫となります。成猫でも様々な要因によって免疫能が低下している時に感染した場合、持続感染が成立することもあります。

    持続性ウイルス血症となった感染猫は、FeLVに関連した様々な疾患を発症することがあります。

    ある報告では6週齢以下の子猫で70~100%、8~12週齢では30~50%、1歳以上では10~20%の猫が持続感染猫になるとの報告があります。

    一過性感染(体内からのウイルス排除)

     感染初期に有効な免疫応答が体内ではたらいた場合には、ウイルスを体内から完全に排除することができます。その結果、ウイルス検査では陰転し、FeLV関連の疾患の発症は認められず、新たなFeLVの暴露に対しても抵抗性(感染しにくくなる)を獲得します。

    一過性のウイルス血症は1~16週間続き、16週間以上ウイルス血症がみられる猫は持続感染と考えられます。

    ③潜伏感染

    持続感染成立の場合と同様に骨髄までの感染が成立した後、ある程度の免疫応答によってウイルスが排除され、検査は陰転しますが、ウイルスは骨髄やリンパ節の染色体にプロウイルスとして組み込まれ潜伏感染しています。

    その後、潜伏感染のままでいることもありますが、免疫応答が優勢になった場合にはウイルスを完全に排除することもあり、一方、出産などのストレスやストロイド剤の投与などによってFeLVの増殖が活発化し、持続感染となってしまうこともあります。

     


    症状

    FeLVが感染した初期には、発熱や白血球減少症などの骨髄抑制が認められることがあります。この症状は1週間程度とされていますが、輸液療法や抗菌薬投与といった対症療法のみで軽快することも多くウイルス感染も成立しないこともあります。

    しかしその後、持続性ウイルス血症となってしまった場合、どのような病気や疾患を引き起こすかを予測することはできません。しかし、最も認められる症状は造血器系腫瘍、免疫抑制、貧血です。また、持続性ウイルス血症であっても発症せずに無症候キャリアのままでいる場合もあります。

    造血器系腫瘍

    FeLVによって引き起こされる造血器系腫瘍のうち、最も代表的なものがリンパ腫です。

    前縦隔型リンパ腫はリンパ腫のうち最も頻度が高く、胸腔内で心臓の前部(頭側)のリンパ節が腫瘍化して巨大になり、心臓や肺を重度に圧迫し、呼吸困難や胸水貯留などを引き起こします。生後間もない子猫のうちに感染して持続性ウイルス血症になった猫は1~2歳前後で発症することも少なくありません。

    免疫抑制

    免疫抑制の状態になると、他の病原体に感染する可能性があります。慢性口内炎慢性鼻炎を起こすこともあります。

    貧血

    FeLVによる貧血は、ほとんどの場合がウイルスによる骨髄抑制効果によって引き起こされる非再生性貧血(再生不良性貧血)で、治療への反応は乏しく予後不良です。まれ(約10%)に治療に反応を示す再生性の貧血が認められることもあります。

    FeLVに関連した貧血として、猫ヘモプラズマ症という感染性の再生性貧血や、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)を起こすこともあります。

     


    検査

    FeLVの診断には血液中のFeLV抗原を検出する院内検査キットが普及しています。少量の血液を採血し、検査キットにかけることで10分ほどで結果が出ます。

    *抗原検査の注意点*

    ①咬傷などによる感染初期(4~6週間)ではウイルス抗原が検出されないため、感染猫に咬まれてすぐに検査しても偽陰性となってしまいますので、感染の可能性がある猫ではできれば受傷後2カ月程度(FIVの同時感染の可能性もあるため)の期間をあけて検査を行う必要があります。

    FeLV陽性の判定が出た場合、予後の予測のためにも16週間(約4カ月)後に再検査を行い、持続性ウイルス血症なのかどうかを確認することが望まれます。

     


    治療

    ①抗ウイルス療法

    インターフェロンω(インターキャット)の投与によって症状の改善が認められるとの報告があるが、効果は確実とは言えません。

    ②対症療法

    FeLVによる何らかの疾患を伴う場合は、それぞれの疾患に対しての対症療法を行います。

    例えば代表的なものとして、前縦隔型リンパ腫を呈した感染猫には多剤併用による抗癌剤治療を考慮します。抗癌剤の投与により腫瘍が縮小し、呼吸状態がかなり改善することも少なくありませんが、効果は永久的ではなく、いつか必ず再発はします。当院では半年間の抗癌剤治療を行い、その後数年再発しなかった例もありますが、数カ月後にすぐに再発した例もあり、再発までの期間は個体差によります。

    慢性口内炎を示す感染猫には、抗炎症作用や食欲増進を期待してステロイドの投与や、二次感染防止として抗菌薬の投与などを検討します。

     


    FeLV感染猫の管理

    ・多頭飼育をしている場合、できれば全頭のウイルス検査を行い、陽性猫と陰性猫を別々に隔離して飼育することが好ましいです。ウイルス血症が認められた猫(陽性猫)が、陰転(再検査で陽性から陰性に変わった)した場合は、ウイルスは骨髄やリンパ節の染色体にプロウイルスとして潜伏感染して存在しています。すなわちウイルスが完全に猫体内から排除されたとは考えません。この潜伏感染している猫の血液を輸血すると、輸血された猫ではウイルス血症となります。潜伏しているウイルスは再活性することがあるため、陰転した感染猫が多頭飼育環境やストレス、何らかの疾患によってFeLVを産生するようになるかもしれません。したがって、陰転した感染猫も非感染猫と一緒に飼育すると、いつのまにか陰転猫が陽性猫となり、ウイルスを蔓延させてしまう危険性があります。

    ・FeLVに感染している猫では他の感染症に罹患しやすくなっているため、屋外へ出さないようにしましょう。

    ・感染猫は定期的に健康診断を行い、体調をチェックしましょう。

     


    FeLVワクチン(5種混合ワクチンに含まれる)

    FeLV陰性の猫を完全室内で飼育している場合はFeLVに感染することはありません。屋外に出ることがある場合は、ウイルス暴露を受ける可能性があるので5種混合ワクチンを検討します。ただしワクチン接種によってウイルス感染を完全に防げるわけではありません。ワクチン接種を行う場合はウイルス検査によりFeLV感染の有無を確認し、FeLV感染が認められる場合はFeLV感染防御を目的としたワクチンは接種しません。

    すでにウイルス血症になっている猫にワクチンを接種しても発症を抑制したり、生存期間を延長するなどのメリットはありません。

     


    消毒

    ウイルスは猫の体内から離れるとすぐに失活します。石けん、消毒薬、熱、乾燥などにより容易に感染性を失います。

     

  • 猫免疫不全ウイルス感染症(FIV;猫エイズウイルス感染症)

    概要

    猫免疫不全ウイルス(FIV)は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)と近縁のウイルスです。FIVは人に感染することはありません。

    FIVは一度猫に感染すると、終生体内から消失することはありません

    FIV感染猫は、慢性的な口内炎・歯肉炎慢性鼻炎、リンパ節症、体重減少などの症状を示すことが少なくありませんが、中にはウイルスに感染しても数年間何の症状もみられない場合や、発症しない猫もいます。

    FIVに感染した猫でも、適切に健康管理してあげることで非感染猫と同様に長生きすることも可能です。

     


    感染経路

    FIVは、感染猫の唾液、血液、乳汁、精液などに存在します。ほとんどの場合、猫同士のケンカなどによる咬傷により感染します。咬傷にはオス猫との交尾中の咬傷感染も含まれます。

    感染猫との食器の共有などによる経口感染もあり得ますが、FIVウイルスは猫の体から離れると乾燥などにより容易に失活するため、感染猫が食べた食器をすぐに他の猫が舐めるといった行為を日常的に行わない限り、すぐに感染するわけではありません。

    また、まれですが妊娠・授乳中の経乳感染や胎盤感染もあり得ます。特に母猫が急性感染している場合はウイルス量が多い状態のため、垂直伝播が起こる可能性があります。

     


    FIVによる病期

    FIVは、①急性期(AP)、②無症候キャリア期(AC)、③持続性全身性リンパ節症期(PGL)、④エイズ関連症候群期(ARC)、⑤後天性免疫不全症候群期(AIDS)の5つの病期に分けられます。

    ①急性期(AP)

    感染から8~12週間で血中ウイルス量がピークに達します。この期間中に一時的に食欲不振、沈うつ、発熱、白血球減少、貧血、下痢などの症状がみられることがありますが、その後は正常に戻ります。しかし、全身のリンパ節腫大(リンパ節症)は数週~数カ月の間、持続する場合があります。

    ②無症候キャリア期(AC)

    AC期では血中ウイルス量の減少がみられます。この時期は免疫によってウイルスの増殖がコントロールされるため、症状はありません。AC期は数年~生涯において持続すると考えられます。中にはFIVに関連した症状を何も示さず寿命を全うする猫もいます

    ③持続性全身性リンパ節症期(PGL)

    この時期があまり明確にわからないこともありますが、全身のリンパ節腫大が認められます。数カ月~1年ほど持続するといわれています。

    ④エイズ関連症候群期(ARC)

    この時期には免疫異常に伴う症状が現れ、口内炎・歯肉炎、上部気道炎、消化器症状、皮膚病変などがみられることがあります。数カ月~数年程度持続するといわれています。

    ⑤後天性免疫不全症候群期(AIDS)

    FIV感染症の末期で、免疫不全による症状として、各種の日和見感染、貧血、腫瘍、重度の体重減少や衰弱などがみられます。

     


    検査

    FIVの診断には血液中の抗FIV抗体を検出する院内検査キットが普及しています。少量の血液を採血し、検査キットにかけることで10分ほどで結果が出ます。

    *抗体検査の注意点*

    ①猫がウイルスに暴露され感染が成立してから抗体が産生されるまでには約1~2カ月かかります。そのため、感染猫に咬まれてすぐに検査しても偽陰性となってしまいますので、感染の可能性がある猫ではできれば受傷後2カ月程度の期間をあけて検査を行う必要があります。

    幼猫のウイルス検査でFIV陽性の判定が出た場合、母猫がFIVに感染していると、生後12週齢程度まではその母猫からの移行抗体の残存による抗FIV抗体を拾っている可能性があります。そのため、6カ月齢以上で再度検査を行い、陰性に変わっていれば移行抗体の影響(本人は感染していない)、陽性であれば本当にその猫がFIVに感染している可能性が考えられます。

    ③FIVワクチンを接種した猫では、当然ながら抗FIV抗体が産生されるので、検査キットでも陽性となります。そのため、FIVワクチンを接種する前に事前にウイルス検査を行っておく必要があります。

     


    治療

    ①抗ウイルス療法

    原因治療(抗ウイルス療法)については様々な研究が行われているが、FIV感染症に関しては積極的に臨床応用されていないのが現状である。これまでに報告されているFIV感染症に対して有効であると思われる抗ウイルス薬の多くは逆転写酵素阻害剤であり、作用機序はウイルス複製の初期の過程を阻害することにある。ジドブジン(アジドチミジン、AZT)が用いられることもあるが、骨髄抑制がみられることがあるため注意が必要である。(当院ではまだ使用したことはありません。)また、インターフェロンω(インターキャット)の投与により、生存期間の延長がみられたとの報告もありますが、その作用機序は不明であり、確立された治療とはいえません。

    ②対症療法

    口内炎や歯肉炎に対しては、抗炎症効果を目的としたステロイドの使用と二次感染防止のための抗菌薬の投与などを行います。それ以外も、それぞれの症状や原因に応じて、対症療法を行います。

     


    FIV感染猫の管理

    ・FIVに感染している猫では他の感染症に罹患しやすくなっているため、屋外へ出さないようにしましょう。

    ・他の健康な猫へFIVを広めないようにするため、感染猫は隔離して飼育することが推奨されます。

    ・未去勢・未避妊のFIV感染猫には不妊手術を行うことが望まれます。

    ・感染猫は6カ月ごとに健康診断を行い、体重減少がないかチェックしましょう。血液検査や尿検査なども定期的に行うことが推奨されます。

     


    FIVワクチン

    子猫では8週齢以降で初回接種し、2~3週間ごとに計3回接種します。その後は1年に1回の追加接種を行います。成猫に関しても同様のプログラムで接種します。

     


    予防

    ・FIVへの接触を防ぐ。FIVの伝播力はさほど強くありませんので、猫同士のけんかに巻き込まれることがなければ感染するリスクは低いといえます。

    ・猫を室内で飼育すること、新しい猫を導入するときには感染の有無を確認すること、また感染リスクのある猫では再度感染の有無を確認することが重要です。

    ・屋内飼育や、野良猫との接触をなくすために避妊・去勢手術を行うのも有効かもしれません。

     


    消毒

    FIVウイルスは猫の体を離れると失活します。石けん、各種消毒薬、熱、乾燥などにより容易に感染性を失います。

     

     

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    「吐く」

    今回は「吐く」という症状についてくわしくお話します。

    吐くという症状は、消化器の病気や全身の様々な異常によって起こります。

    犬・猫では日常的によくみられる症状で、飼い主様も気になっている症状だと思います。

    「吐く」という症状は大きく、「吐出」「嘔吐」の二つに分けられます。

     


    「吐出(としゅつ)」

    飲み込んだ食べ物が胃の中に入る前に口から勢いよく吐き出されることを吐出といいます。

    食べた直後にみられることが多く、食べ物は未消化で、胃液はほとんど混じっていません。

    吐物は食道を通過したままの筒状の形をしていることがよくあります。

     

    吐出の原因

    多くは食道の様々な機能障害、炎症、異物などによって起こります。

    小型犬種では、鋭利に割れた硬めのクッキー、果物やお肉、おやつなどでも、大きさによっては丸呑みすると食道につまったり食道を傷つけ、食道閉塞や食道炎を引き起こし、激しい吐出や飲食ができないことにより、最終的に腎不全や食道狭窄、誤嚥性肺炎により命に関わることもあるので注意が必要です。

     


    「嘔吐(おうと)」

    胃に入った内容物を口から吐き出すことを嘔吐といいます。

    吐く前に、元気消失、震え、口をなめ回したり、よだれを垂らすなどの吐き気の前兆がよくみられます。

    また、吐くときに腹部の筋肉が収縮し、おなかを上下させるように胃から内容物を逆流させる蠕動(ぜんどう)運動がみられることが多いです。

    嘔吐の原因

    食道や胃腸の閉塞・圧迫、炎症、異物誤飲、腫瘍、空腹時胃酸過多、細菌・ウイルス・寄生虫などによる全身性感染症、毛球症など様々な原因が考えられます。

     

    猫の毛球症

    猫は毛の生えかわる換毛期に頻繁にグルーミングをし、大量の毛を飲み込み、胃の中で毛玉となり、それが胃の出口につまると胃の内容物と一緒に毛玉を吐くことがよくありますが、これは病気ではありません。

    ブラッシングをこまめにしてあげたり、毛玉を便に出しやすくするサプリメントもありますので、気になっている方はお気軽にご相談下さい。

     

    胃運動障害(胃アトニー)

    胃の運動性低下による胃内容物の十二指腸への排出遅延のことをいいます。

    簡単にいうと、胃から腸へと食べ物を送る能力が低下しているということです。

    異物などによる物理的閉塞がないにも関わらず、食後数時間以上経過してから食べたものを嘔吐する場合、胃運動障害(胃アトニー)の可能性もあります。

    勢いよく食べてから三十分以内に吐くこともよくあり、比較的猫で多くみられます。

    胃ぐすりや消化管機能改善薬などの投薬や食事療法により、症状が改善することが多いです。

     


    吐出、嘔吐を起こす原因リスト(多い順)

    普段、僕が診療していて吐出、嘔吐の原因リストとしてみかけることの多いイメージのある順に並べてみました。下の方に行くほどまれです。犬・猫共通です。

     

    ★「吐出」の原因リスト(多い順)★

     一気食いによる食道容積オーバーによる吐出

     食道内異物(超小型犬では食べ物による閉塞も含む)

     食道炎

     食道拡張症(巨大食道症)

     食道狭窄

     誤嚥性肺炎

     食道裂孔ヘルニア

     胃の噴門(胃の入り口)狭窄

     先天性右大動脈弓遺残症

     

    ★「嘔吐」の原因リスト(多い順)★

     空腹時胃酸過多

     胃潰瘍

     毛球症(猫)

     乗り物酔い

     急性・慢性胃炎

     胃運動障害・胃アトニー(特に猫)

     異物による消化管閉塞(胃・腸閉塞)

     急性膵炎

     食物不耐性

     胆管炎(猫)

     尿路閉塞による急性腎不全(特にオス猫、オス犬)

     胆嚢炎・胆嚢破裂、胆管閉塞

     中毒

     消化管内寄生虫(特に子犬、子猫、野良猫)

     猫の巨大結腸症、便秘

     炎症性腸疾患

     糖尿病性ケトアシドーシス

     高齢犬の突発性眼振(目まい)による悪心

     腫瘍(中高齢での胃・小腸のがん、ダックスではまれに若齢でも発生)

     腸重積

     アジソン病(副腎皮質機能低下症)

     肝疾患

     肥満細胞腫(皮膚発生例でも、腫瘍随伴症候群による高ヒスタミン血症により嘔吐)

     胃の幽門(胃の出口)狭窄

     敗血症(全身性細菌感染症)

     腎炎

     パルボウイルス感染症

     レプトスピラ感染症

     その他

  • ,

    膀胱炎(犬・猫共通)

    膀胱炎の概要

    膀胱炎とは、膀胱に炎症が起こり、尿をためたり、排尿したりといった膀胱の機能に支障が生じる疾患です。急に発症する場合を急性膀胱炎、経過が長い場合を慢性膀胱炎といいます。

     


    原因

    膀胱炎は、便の中、陰部(メス)、陰茎(オス)周囲の皮膚などに存在する細菌が尿道内に入り込み、そのまま尿道をつたって逆流性に膀胱内に浸入・感染することで発症する細菌性膀胱炎が最も一般的です。

    また、遺伝的要因、偏った食生活などによって膀胱内に結石ができてしまうと、石が膀胱粘膜を慢性的に刺激することで慢性膀胱炎を起こすこともあります。

    猫ではストレスが要因となった特発性膀胱炎も一般的によくみられます。ストレスの代表的な原因としては、環境の変化や、新しく迎え入れた猫との折り合いが悪い、などが挙げられます。

     

    膀胱炎の原因を、犬・猫に分けて、もう少し具体的にみていきますと、

    では急性膀胱炎が多く、そのほとんどが細菌感染が原因です。尿道が細くて長いオス犬よりも、尿道が太くて短いメス犬の方が細菌感染を起こしやすいです。原因となる細菌は、便中に含まれる大腸菌がほとんどです。

    再発を繰り返す慢性膀胱炎では、耐性菌といって抗生物質に抵抗力をもつ細菌が増殖しているか、すでに膀胱内に結石ができておりそれが慢性的に膀胱粘膜を刺激することで再発を繰り返すことがあります。去勢手術を行っていない高齢のオス犬では、前立腺疾患が原因となって細菌性膀胱炎を起こすことも比較的よくみられます。

    では10歳未満の猫では特発性膀胱炎が最も多く、10歳以上の高齢猫では尿路結石や慢性腎臓病が基礎疾患となった細菌性膀胱炎が多くなります。

    また、犬・猫に共通して、交通事故などによって下半身麻痺になってしまった場合は、陰部が地面に接することが多くなるため、常に細菌感染を起こしやすくなり、慢性細菌性膀胱炎を起こすことがあります。

     


    症状

    膀胱炎を起こすと、血尿(尿に血が混じる)、頻尿(何度も排尿姿勢をする)、残尿感(尿が出ないのにいつまでも排尿姿勢を続ける)、排尿時の痛み、においの強い尿、尿漏れなどの症状が見られるようになります。

    通常、膀胱炎だけでは発熱、元気消失、食欲不振、嘔吐などの症状は認められません。このような症状も一緒に認められる場合は、腎盂腎炎、前立腺膿瘍などの併発疾患も考慮する必要があります。

     


    診断

    ①尿検査

     膀胱炎が疑われる場合には必須の検査となります。色調、におい、尿pH(酸性尿か、アルカリ尿か)、出血の有無、細菌感染の有無、尿比重、尿糖の有無などを調べます。

    ②超音波検査(エコー)

     膀胱内の状態を画像で直接把握するのに最適な検査です。動物への負担もなく調べることができます。膀胱内の濁り、膀胱粘膜の厚みの評価、膀胱粘膜の凹凸・膀胱結石・膀胱内腫瘍の有無などを目で見て調べることができます。

    ③X線検査(レントゲン)

     急性膀胱炎の場合は必ずしもレントゲンは撮りませんが、再発性・慢性膀胱炎の場合は尿路(腎臓・尿管・膀胱・尿道)内の結石の有無を調べます。

     


    治療

    急性の細菌性膀胱炎の場合は、抗生物質(抗菌薬)の内服によって治療を行います。通常は2週間程度、内服を継続し、症状が治まり膀胱から細菌がいなくなれば治療は終了です。細菌がいなくなったかどうかは、再度尿検査をして確認します。

    慢性膀胱炎の場合は、抗生物質が効きにくい耐性菌が感染していることもあるため、尿を検査センターに送り、細菌培養検査および薬剤感受性試験(原因菌の特定と、有効な抗生物質を調べる検査)を行ったうえで、適切な抗生物質を選択することが望まれます。治療期間も、急性膀胱炎に比べ、長期間の治療が必要となることがあります。

    すでに膀胱結石が存在し慢性膀胱炎を起こしている場合は、手術により膀胱内の石を摘出しなければ膀胱炎がすっきり治ることはありません。抗生物質等の治療により一時的に症状が軽減しても、またすぐに再発を繰り返します。

    糖尿病、慢性腎臓病といった基礎疾患が存在する場合は、それらの治療を同時に行うことで慢性膀胱炎もより短期間での改善が期待できます。

     

     

  • 犬アトピー性皮膚炎の治療薬「サイトポイント」詳細

    「サイトポイント」詳細

     

     

     

     

     

     

     

    ①有効成分;ロキベトマブ

    ②特徴

    1回の注射で約1カ月間、犬アトピー性皮膚炎による症状(主に痒み)を緩和する長期持続型のお薬

    ③作用機序

    痒みを誘発する主なサイトカイン(体内生理活性物質)であるインターロイキン31という物質を特異的に中和し、痒みのサイクルを断ち切ります。

    ④注射プログラム

    初めの4カ月間は、1カ月に1回の注射。

    それ以降は、約1カ月ごと、あるいは痒みがぶり返して来たら速やかに適宜追加注射を行う。

    個体差によって、2~3週間で痒みが再発する子もいれば、反対に1カ月以上もつ子もいます。2カ月あくと痒みがぶり返す可能性があります。

    ただ、アトピー性皮膚炎には痒みの増減に季節性があることが多いので、環境アレルゲンの比較的少ない冬季は、注射の間隔を少し延ばせるかもしれません。

     


    有効性

    犬アトピー性皮膚炎において、痒みを引き起こすインターロイキン31という物質が関与している症例は6~7割程度だそうです。

    つまり、インターロイキン31のみを特異的に中和する薬であるサイトポイントが有効な症例は実際には6~7割ということです

    サイトポイントが有効な場合、痒みを抑える効果の発現は、早い子で注射後3~4時間、遅い子で3~5日前後、長くみても1週間以内には効果が出るそうです。このように効き始めには多少ばらつきがあるようです。

    1週間経っても効果がない場合は、このサイトポイントが効かない子かもしれません。

    しかし残念ながら、事前にサイトポイントが有効なのか有効ではないのかを調べる検査は今のところありません。

    確認のためには実際に打ってみるしかありません。

    また、サイトポイントが有効な子の場合、その効果は毎月注射するごとに徐々に高まっていき、約4カ月目頃に最大効果に達するようになり、それ以降も定期的な注射を続けていくことで安定した効果が認められます。

    途中で完全にやめてしまうと、お薬の効果は最終的には完全に切れてしまいます。

    サイトポイントを実際に使用している先生方の報告だと、柴犬の犬アトピー性皮膚炎にはサイトポイントが有効な子が比較的多いそうです。


     

    副作用や注意点

    まず、サイトポイントによる副作用は限りなく少ない(ほとんどない)そうです。国内で使用可能になった現時点までに、海外のデータを含めると約100万回投与されているとのことですが、高い安全性の成績が得られているそうです。短期・長期的な有害作用の報告もなく、臓器毒性の報告もありません。

    注射時の痛みもほぼありません。

    非常に若い犬(6カ月齢以上)にも使用可能で、併用薬にも制限はありません。

    ただし、3kg未満の犬では打つことができません。(臨床試験による安全性が確認できていないため)

    サイトポイントは抗体製剤ということで蛋白質の入ったお薬ですので、理論上、注射後にアレルギー反応が生じる可能性がありますが、臨床試験の結果では注射後にアレルギー反応が起こる可能性は限りなく少ない(ほぼない)そうです。

    まれにサイトポイント中の抗体に対する抗体がつくられてしまうと効果が減弱する可能性がありますが、開発中に行われた試験では、521頭の犬のうち抗体を獲得した犬はわずか7頭(1.3%)だったそうです。

    混合ワクチンとの同時注射はできません。(1週間程度ずらした方がいいそうです。)

    サイトポイントが有効な子では、現在飲んでいるお薬を徐々に減量、最終的には休薬を目指し、定期的なサイトポイントの注射のみで痒みをコントロールしていけるかを判断していきます。うまくいけば飲み薬を一切やめて、定期的な(約1カ月に1回の)サイトポイントの注射のみで痒みを抑えていくことができるかもしれません。

    しかし、現在飲んでいる飲み薬をサイトポイントの注射を併用することで減量できたとしても、完全にやめることはできない可能性もあります。

    サイトポイントはあくまで「アトピー性皮膚炎」に対して有効な薬であり、食物アレルギーには無効です。(花粉・ハウスダストなどの環境アレルゲンによるものがアトピー性皮膚炎、摂取した食物アレルゲンによるものが食物アレルギーです)

    そのため、理想的にはサイトポイントによる治療を始める前に、アレルギー検査を行い、アトピー性皮膚炎かどうかを調べてからサイトポイントによる治療を開始することが好ましいのですが、このアレルギー検査がとにかく高い!(4万円ほどします…。)

    サイトポイントは副作用がほぼないお薬であること、それから仮にアトピー性皮膚炎であっても有効な症例は6~7割で、最終的には打ってみないと効果がわからないという特徴をもっていることから、場合によってはアトピー性皮膚炎が疑わしいワンちゃんは、アレルギー検査を省略してサイトポイントを実際打って判断していく、ということも少なくないそうです。

    また、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの両方をもっているワンちゃんでは、サイトポイントの注射+食事療法を行う必要があります。

     


    治療費

    サイトポイントは犬の体格にあわせて、10mg、20mg、30mg、40mgと4種類あり、下記のように、体重ごとにそれぞれのサイズのサイトポイントを1瓶ずつ注射することになっています。

    当院でのサイトポイント 1回の注射代(税抜)料金は、

    3.0 kg ~ 10.0kg →¥9,300 (10mg製剤1本を注射)

    10.1kg ~ 20.0kg →\12,700 (20mg製剤1本を注射) 

    20.1kg ~ 30.0kg →\18,100 (30mg製剤1本を注射)

    30.1kg ~ 40.0kg →\20,500 (40mg製剤1本を注射)

    となります。

     


    まとめ

    サイトポイントは毎日飲み薬を飲ませている飼い主様の負担、また実際にお薬を飲んでいるワンちゃんの負担を軽減させてくれるかもしれません。特に、ワンちゃんが薬を飲むのを嫌がって、毎日投薬するのがちょっと大変…という飼い主様には朗報かもしれません。

    しかし、実際に有効な症例はアトピー性皮膚炎をもっているワンちゃんのうち6~7割と、すべての子に有効でないところがちょっと残念なところです。

    でも6~7割というと、ほとんどの子に有効、ともいえます。

    有効かどうかは実際にサイトポイントの注射を打ってみないとわかりません。

    この記事を読んで、サイトポイント注射によるメリットを感じた飼い主様は、一度ためしてみてもいいかもしれません。

    ただ、コスパ的にいうと少し高いかもしれません。特に、プレドニゾロン(ステロイド)のみでの治療と比較するとだいぶ高くなってしまうかもしれませんが、ステロイド長期投与による副作用の可能性を考えると、その点、副作用のほぼないサイトポイントは体への負担は少ないかもしれません。

    プレドニゾロンよりもやや価格の高いアポキル錠を毎日投薬しているワンちゃんの場合は、毎日の投薬の手間も考えると、サイトポイント注射も検討されてもいいかもしれません。

    報告によると、アポキル錠のみを1日1回で投薬し良好にコントロールできているワンちゃんに対し、サイトポイントに切り替えた際、そのまま痒みを良好にコントロールできた症例は92.5%だそうです。

    サイトポイントは、いわば「痒み止め」のお薬です。赤みを伴う炎症を起こしている皮膚には、消炎効果は基本的にありません。

    副作用がほとんどないことと、毎日の投薬をしなくていいところがサイトポイントの良いところですが、皮膚炎を起こしてしまっている場合は、やはりステロイドやアポキル錠などの飲み薬、あるいは塗り薬を必要に応じて併用し、アトピーによる症状を複合的に抑えていく必要があります。

    アトピーという体質そのものを治すお薬は残念ながら今のところありませんが、生涯つきあっていかなければいけないこの疾患に対し、心強い治療薬が一つ増えたことには違いありません。

    ご興味のある方は、ぜひご相談ください。

    ※現在、流通の関係で入手困難な状況にあります。入荷しましたらまたご連絡致します。

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    がんとは

    動物達も高齢化の時代となった今、最も多い死因が「がん(=腫瘍)」です。

    がんとは、自分の体内に存在する細胞が自律的に無目的にかつ過剰に増殖する状態と定義されます。簡単にいうと、体内のある一群の細胞が、ある特定の部位でむやみやたらと増え、転移を起こし、その動物の命をむしばむということです。

    がんは大きく二つに分けられ、リンパ腫や肥満細胞腫など自ら独立して機能できる細胞の腫瘍を独立円形細胞腫瘍、それ以外のものを固形がんと呼びます。固形がんはさらに分類され、上皮系細胞由来のものを「~癌」といい(例:扁平上皮癌)、 非上皮系細胞由来のものを「~肉腫」といいます(例:血管肉腫)。対して、良性のものは「~腫」といいます(例:脂肪腫)。

    腫瘍が発見に至る約1cmほどの大きさになる頃、そのしこり内にはおよそ一億~十億個のがん細胞が存在するといわれています。

    腫瘍の増殖曲線はS字状曲線を描くといわれ、まだ腫瘍が小さいうちは、その増殖スピードは速く急激な増殖曲線を描きますが、ある程度の大きさになるとその増殖スピードは緩やかとなります

    人間同様、三大抗がん治療は、外科治療、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)となります。

    外科治療放射線治療は局所のみの治療となりますが、まだ腫瘍が小さい初期のうちは根治がねらえます。腫瘍が転移を起こしてしまった場合は、局所のみの治療では対抗できないため化学療法が適応となります。ただし、リンパ腫の場合、造血器、いわゆる血液のがんで全身疾患ということになり、最初から化学療法が適応となります。

    腫瘍にはステージ分類があり、初期は局所に限局するのみ、徐々に周囲組織やリンパ節へ浸潤し、やがて他の離れた臓器(腹腔内臓器や肺、骨髄など)へ遠隔転移を起こすようになります。当然、ステージが進行すれば、根治(腫瘍の根絶)の可能性は低くなります。

    当院では腫瘍の治療にも力を入れ、外科治療、化学療法にも幅広く対応しておりますので、お悩みの方はお気軽にご相談下さい。

  • アレルギー性皮膚炎 ~入門編~

    まずはアレルギーを語るには欠かせない IgEについて知ろう


    IgEとは、血液中に存在する免疫グロブリンといわれる免疫に関わるタンパク質の一種で、からだの中にアレルギーの原因物質(アレルゲン)が侵入してきたときにからだを守る働きをもつ抗体です。

     

     

    犬アトピー性皮膚炎とは


    ひとことでいうと、環境アレルゲンに対するアレルギーのことです。

    例えば、花粉、、ダニ、カビなどで、食物アレルゲンによるアレルギー反応はアトピー性皮膚炎に含まれません。

    犬アトピー性皮膚炎に特徴的な、腋窩(わきの下)、大腿部内側(内また周囲)、四肢の屈曲部における痒みを伴う慢性の皮膚炎が存在し、検査の結果、環境アレルゲンに対するIgEが検出された場合、アトピー性皮膚炎と診断されます。

    環境アレルゲンが悪さをするピークは、それぞれ季節によって異なり、症状の程度に季節性がある場合は、アトピー性皮膚炎の可能性がより高いといえます。

     

     

    食物アレルギーとは


    環境アレルゲンが原因の犬アトピー性皮膚炎とは違い、食物アレルゲンが原因のアレルギーとなります。

    症状の出方には大きく2つのパターンがあります。

     

    1.目や口の周り、背中などに皮膚炎が出る典型的なパターン

    →かなりの確率で食物アレルギーを疑うことができる。

     

    2.犬アトピー性皮膚炎による皮膚症状と似ているパターン

    →見た目だけでは、食物アレルギーなのか、アトピー性皮膚炎なのか区別することはできない。

     

    また、食物アレルギーは、アトピー性皮膚炎と違って、

    IgEの反応によるもの と リンパ球の反応によるもの 

    の2つのメカニズムがあります。

    したがって、食物アレルギーの可能性も疑われる場合、IgEとリンパ球の両方の検査を行わなければ見逃しを生じてしまう危険性があります。

     

     

    アトピー性皮膚炎か食物アレルギーかを見分けるポイント


    食物アレルギーに特徴的なサインとして、

    ①1歳未満から痒みがある

    ②季節を問わず、一年中痒い

    ③1日3回以上の排便

    ④目・口の周囲、背中に痒みがある 

    があげられ、1つでも該当する場合、食物アレルギーの疑いをもつ必要があります。

    反対に、1つもあてはまらず、でもやはり経過的にアレルギーが疑われる場合、犬アトピー性皮膚炎を疑う必要があります。

     

     

    実際には、アレルギー性皮膚炎は3パターンに分かれる


    ①犬アトピー性皮膚炎

    ②食物アレルギー

    ③アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの混合型

     

     

    痒みがない場合はアレルギーではない!?


     

    アレルギーの場合は、ほぼ必ず痒みを伴います。

    痒くないアレルギーはありません。

    しかし、痒みの原因はアレルギーだけではなく、ノミやダニなどの寄生虫、微生物(細菌や真菌)なども痒みの原因となります。

    アレルギー性皮膚炎の場合、皮膚のコンディションの悪化により、これらの病原体が増えやすい状態になっていますので、まずは基本的な検査により、これら(寄生虫や微生物)の有無を確認し、もしいた場合はそれらを治療したうえで、それでも痒みが続く場合は、いよいよアレルギーの可能性を疑っていきます。

     

     

    アレルギーの痒みの特徴


    アレルギーによる痒みが生じる部位はある程度決まっています。

    腋窩(わきの下)、肘の内側、内また、四肢端(手や足の先)、肛門周囲、耳、目や口の周囲、背中です。

    これらの部位に痒みを伴う場合、アレルギーの可能性が高くなります。

    この中で、特に目・口の周囲と背中に関しては、犬アトピー性皮膚炎で起こることはまれで、多くが食物アレルギーによって起こります。

     

     

    アレルギーを疑った際にすべきこと


    痒みを伴う皮膚炎に対し、寄生虫や微生物などの病原体の有無を確認し、それらが除外されたうえでも痒みが残る場合、アレルギー性皮膚炎が疑われますが、その次は実際にはどのような検査をしたら、犬アトピー性皮膚炎なのか、食物アレルギーなのかを正確に分けられるのでしょうか。

     

    ①アレルギー検査

    検査費用が高い(すべての項目を行うと4万円…ほどかかる 😯 )のがネックになりますが、保険に入っている方は保険対象になることもありますし、この検査をしなければ、結局何に対して反応しているのかがわからないので、憶測の範囲でアレルギーの治療をしていかなければいけません。

    しかし、やはり費用的な問題でアレルギー検査が難しい場合は、②の除去食試験から実施してみるのもいいでしょう。

    その後、やはり必要であれば、再度アレルギー検査の実施について検討してみてもいいと思います。

    検査は、採血を行い、血液を検査センターに送るだけです。

    当院が委託している動物アレルギー検査会社では、以下の項目について調べることができます。

    特徴的な症状があって、IgE検査で環境アレルゲンに対するIgE値が上昇している症例は、犬アトピー性皮膚炎との診断となります。

    IgE検査でどのアレルゲンにもIgE値の上昇がみられなかった場合は、犬アトピー性皮膚炎の可能性は低くなります。

    (※上記の代表項目以外にも、環境アレルゲンは無数にありますので、完全には否定できません。ただし、上記以外の環境アレルゲンがアトピー性皮膚炎の原因となることは比較的まれであると考えられます。)

     

    IgE検査とリンパ球反応検査で食物アレルゲンに対して、陽性域あるいは要注意域の値を検出したら、かなり高い確率で食物アレルギーと考えられます。

     

    ②除去食試験

    検査結果からアレルゲンとして反応している食物が入っていない食事を与える食事療法のことを「除去食療法」といい、この食事療法により実際にアレルギーの症状が軽減あるいは消失するかを確認することを「除去食試験」といいます。

    検査結果から正しく選んだ除去食のみを、他の食べ物を食べさせないようにしてきちんと与えていると、食物アレルギーだけが痒みの原因であった場合は早くて3週間目くらいから症状が改善してきます。

    ただし、万が一、除去食と異なるものをちょっとでも食べてしまった場合には、目的の治療が行われていないことになり、治療効果の判定が難しくなってしまいます。

    症状が改善した場合は問題ありませんが、期待したような改善がみられなかった場合、除去食試験がうまくいっていないのか、治療方針が間違っていたのか、判断することができなくなってしまいます。

     

     

    犬アトピー性皮膚炎と食物アレルギーが混在していたら…


    検査の結果、両者が混在しているタイプの場合、まずは除去食療法を行い、3週間ほどして除去食の効果が出てきて食物アレルギーが治まってきたら、痒みは少し治まってくるはずですが、ここで残った痒みが犬アトピー性皮膚炎による痒みと考えられます。

    つまり、食物アレルギーに対しての食事療法と、犬アトピー性皮膚炎に対しての内科治療の両方を平行して行う必要があります。

     

  • ケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)

    概要

    まだ免疫力の十分でない子犬が発症することの多い、咳を主症状とした感染性の気管および気管支炎のことです。

     

    病原体

    イヌアデノウイルス2型、

    犬パラインフルエンザウイルス、

    犬ヘルペスウイルス、

    Bordetella bronchiseptica(気管支敗血症菌)、

    マイコプラズマ

    などの病原体の単独あるいは複合感染によって起こります。

    Bordetella bronchiseptica(気管支敗血症菌)がネコに感染することはまれで、ケンネルコフといえば、一般的には子犬が罹患する伝染性の喉頭気管炎を指します。

     

    症状

    軽度のケンネルコフでは、短くて乾いた咳が特徴的で、3~10日間の潜伏期間の後に発症します。

    気管を触診することによって咳が容易に誘発されます(コフテスト陽性)。

    また、運動、興奮、首輪の圧迫などによっても咳が出やすくなります。

    食欲・元気は通常ありますが、病原体の混合感染により子犬はより重度の呼吸器症状(痰(たん)を伴う咳、鼻汁排出など)を呈し、発熱や元気消失などの全身症状が出るようになり重症化すると、肺炎などにより死亡する危険性もあります。

     

    細菌性肺炎の危険性

    犬では、二次的な細菌性肺炎が発症することがあります。すでに慢性気道疾患または気管虚脱が認められている犬では、それらの慢性疾患が急性かつ重度に悪化する場合があり、動物におけるこの感染症に関連した症状が治癒するためには、長期間治療することが必要である。

     

    感染ルート

    多くの場合、ペットショップから購入したばかり、ブリーダーや動物愛護団体から譲渡されたばかりのことが多く、それ以外にも2週間以内にどこかに出かけたり、他の子犬や同様の症状を示す犬と接触したという経歴があることが多いです。

    通常、感染後1週間以内に発症します。

     

    診断

    確定診断は多くの場合は困難で、

    ・年齢(若齢)

    ・ワクチン接種歴の有無(まだワクチンを打ったことがない)

    ・入手経路(つい最近まで多頭飼育施設にいた)

    ・感染犬との接触の有無

    などを考慮したうえで臨床徴候から推測することで暫定的にケンネルコフと診断することがほとんどです。

    X線検査では通常、正常あるいは軽度の気管支パターンといわれる所見がみられるのみで、診断の一助になることはあってもX線写真だけでケンネルコフとの確定診断はくだせません。

    血液検査の数値はほぼ正常です。

     

    治療

    合併症のないケンネルコフは、時間が経てば自然治癒することが多いです。過度の咳によって起こる気道の継続的な刺激を最低限にするために、少なくとも7日間の安静、特に運動と興奮を避けることが必要です。

    軽症の場合、薬物投与は必要なく、適度な温度と湿度の環境下で安静にすれば、7~10日以内に自然治癒するといわれています。

    しかし、細菌性肺炎への重篤化を避けるため、慎重を期する、あるいは治療の必要ありと判断した場合には 抗菌薬気管支拡張薬 を使用します

    また咳が持続性あるいは顕著であれば 鎮咳剤 も使用することもありますが、鎮咳剤は、咳が湿性の場合、聴診または胸部X線写真で肺に液体が貯留していることが疑われるような場合は投与すべきではありません。

    噴霧療法(ネブライジング)も有効です。(抗生物質や気管支拡張剤などを気体状にし吸入させることで、直接、気管や気管支などの患部に薬剤を浸透させる治療です。)

    投薬を行った場合、通常1週間以内に症状の改善が認められますが、治療は約2週間続けるべきといわれています。

     

    ■抗菌薬

    広域スペクトル(多くの病原体に広く浅く効く)のものを選択します。

    テトラサイクリン、マクロライド系、ペニシリン、セファロスポリン、クロラムフェニコールなどが有効です。抗菌薬は臨床徴候が消失してからさらに5日間、または少なくとも14日間投与します。

     

    ステロイドは使用しません。Thrusfieldによる臨床試験では、単剤または抗菌薬との併用のどちらでも、ステロイド治療の利点を見出せなかったとの報告があります。

     

    ■気管支拡張薬

    交感神経作動薬であるテルブタリンや、キサンチン系気管支拡張剤であるアミノフィリンやテオフィリンが使用されます。

    後者のキサンチン系気管支拡張剤は、気管支拡張作用のほか、気道クリアランス(気道の粘膜にもともと備わっている、分泌物・異物・病原体などを口の方に運ぶはたらき)の改善抗炎症効果などがあります。

    ■鎮咳剤 

    ブトルファノールが最も効果的で、その他デキストロメトルファン、コデインなどがありますが、使用頻度は高くありません。

     

    予後

    肺炎などの合併症がなければ良好です。

     

    予防

    混合ワクチンの接種と、動物の細菌への暴露を最小限にすることによって予防できることが多いですが、

    たとえワクチンを打っていたとしても、注射型ワクチンの気道粘膜面における有効性は必ずしも確実ではないともいわれていますので、100%予防できるわけではありません。

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