新しく猫ちゃんを迎え入れるときの注意点
知らなきゃこわい、先住猫にうつる病気
*よくみかけるが治療可能なうつる病気
① 猫伝染性鼻気管炎(いわゆる猫カゼ)
② ノミ、シラミ、耳ヒゼンダニ、ヒゼンダニ(疥癬)などの外部寄生虫
③ 回虫、鉤虫、条虫類などの消化管に寄生する内部寄生虫

*まれだが、治療困難で先住猫の命に関わるうつる病気
④ 猫エイズウイルス感染症
⑤ 猫白血病ウイルス感染症
⑥ 猫パルボウイルス感染症(猫汎白血球減少症)
⑦ 猫コロナウイルス感染症
「子猫を拾って飼いたいのですが、先住猫ちゃんにうつる病気がないか調べてほしい」というご相談をよく受けます。猫好きな方が複数頭猫を飼いたい気持ち、よくわかります。しかし、しっかりと知識を持って家族に迎え入れないと、今飼っている大好きな先住猫ちゃんの命を自ら危険にさらしてしまうことさえあります。
先住猫ちゃんを守り、幸せな猫ライフを送るためにも、正しい知識を身につけましょう。
よくみかける治療可能な病気
①猫の上部気道感染症(いわゆる猫カゼ)
主にヘルペスウイルスやカリシウイルスなどによって引き起こされ、目ヤニ、結膜炎、鼻水、くしゃみなどのカゼ症状を主とした感染症です。拾った子猫にはよくみられます。お互いのグルーミングや食器の共有による経口感染、鼻水・くしゃみなどによる飛沫感染によりうつります。
命に関わることはほとんどありませんが、高確率でうつります。ヘルペスウイルスは一度感染すると体外へ排除することが難しく、潜伏感染していて、ストレスや免疫力低下などにより再び増幅し症状を再発させます。カリシウイルスも体外へ完全に排除できない場合は同様です。両ウイルスに感染した猫は症状が回復した後もキャリアーとなり、感染源となります。
症状の多くは、抗生物質をはじめとした治療により改善が期待できます。
先住猫ちゃんがしっかりと混合ワクチンを接種していれば、100%ではありませんが高確率で感染を予防できます。
※キャリアー…外見は健康であるにもかかわらず、その体内に病変体を保有し排出している動物のこと
②ノミ、シラミ、耳ヒゼンダニ、ヒゼンダニ(疥癬)などの外部寄生虫
身体検査や耳垢・フケの顕微鏡検査で確認します。ノミは大量寄生による吸血で重度の貧血や、ノミアレルギー性皮膚炎などを起こします。シラミはフケや痒みの原因となります。耳ヒゼンダニは外耳炎の原因となります。ヒゼンダニは耳周囲などの顔に重度の痒み、脱毛、フケを伴う皮膚病を起こします。発見された場合、駆虫薬により駆除が可能です。
③回虫、鉤虫、条虫類などの消化管に寄生する内部寄生虫
糞便検査により確認します。感染すると嘔吐や下痢を起こすことがあります。駆虫薬により駆除が可能です。
まれだが、治療困難で
先住猫の命に関わるうつる病気
④猫エイズウイルス感染症(猫免疫不全ウイルス感染症、FIV感染症)
ウイルスは血液、唾液、乳汁、精液中などに存在し、主に交尾、ケンカの際の咬傷、グルーミング、食器の共有などにより感染します。一度感染すると、生涯、体外から排除されることはありません。急性期に発熱、下痢、リンパ節腫大などの症状ののち、数年から10年以上にわたる無症状期に入り、最後のエイズ発症期には著しい体重減少や日和見感染などを起こし、数カ月以内に死に至ります。
⑤猫白血病ウイルス感染症(FeLV感染症)
ウイルスは主に唾液中に存在し、グルーミング、食器の共有、ケンカの際の咬傷などにより感染します。
●感染タイプ
【持続感染】
ウイルスに対する免疫応答が不十分なため、全身的なウイルス血症に陥り、感染は骨髄や全身のリンパ系組織にまで及びます。生涯、ウイルス血症が続き、無症状キャリアーのままのこともありますが、リンパ腫をはじめとした様々な病気を引き起こすことも少なくありません。
【一過性感染・ウイルス排除】
ウイルスに対して有効な免疫応答が働き、ウイルスは体内から排除されます。FeLV関連疾患の発症は認められません。
【潜伏感染】
持続感染の場合と同様、骨髄にまで感染が及びますが、ある程度の免疫応答によってウイルスが排除されます。しかし遺伝子レベルではウイルスが残存し、その後の体調によっては再増殖し、持続感染となってしまうこともあります。
一般的には、若齢猫、特に4カ月未満の子猫は、持続感染になる確率が高く、離乳期を過ぎて感染した場合は約50%、生後まもなく感染した場合(感染した母猫に舐められて)ほぼ100%が持続感染となります。
このような猫では3~4年以内に80%以上の猫が死に至るともいわれます。一方、健康な成猫では一過性感染・ウイルス排除の経過をたどる=治る確率が高く、1歳以上の猫では10%程度しか持続感染にならないといわれていますが、成猫でも様々な要因によって免疫能が低下している場合には、持続感染となってしまうこともあります。
つまり、感染したときの猫の年齢と深い関係があるのです。
●猫エイズ・白血病ウイルスのコンボ検査
猫エイズウイルス(FIV)に対しては抗体の有無を、猫白血病ウイルス(FeLV)に対しては抗原の有無を、一つの検査キットで両方いっぺんに判定できます。少量の採血で10分ほどで結果が出ます。
抗体 … ウイルスなどの病原体に対し、動物側がそれをやっつけるために体内につくり出したもの
抗原 … ウイルスなどの病原体のこと

感染してから1カ月はウイルス検査をしても反応が出ないことがあるため、保護した猫ちゃんを検査する場合は、1カ月以上経ってから検査する必要があり、それまでは先住猫との隔離が必要です。
猫エイズウイルス抗体が(+)の場合、過去に猫エイズウイルスに感染し、体内で抗体がつくられたということになりますが、エイズウイルスは抗体ができても体外へ排除することはできないため、抗体(+)=現在も猫エイズウイルスに感染しているということになります。
猫白血病ウイルスについては、持続感染とならなかった猫は、検査で猫白血病ウイルス抗原が(+)と出ても、4カ月後の再検査で(-)になる=陰転することもあります。ですから、特に成猫の場合は猫白血病ウイルス抗原が(+)と出てしまっても、あきらめずに4ヶ月後再検査することをおすすめします。持続感染となる確率は、離乳期を過ぎて感染した場合は約50%、1歳以上の猫では10%程度といわれています。
⑥猫パルボウイルス感染症(猫汎白血球減少症)
発熱、食欲減退、嘔吐、下痢、総白血球数の減少を特徴とする感染症で、子猫の感染の場合は死亡率が90%以上とかなり高いです。下痢はあることとないことがあります。成猫でも、混合ワクチン接種をしていないと感染して死亡してしまうことも少なくない恐ろしいウイルスです。ウイルスは主に糞便中に排出されます。非常に感染力が強く、完全室内で飼っている猫ちゃんでもワクチンを打っていなければ、人間の靴についたウイルスが家に入り込むと簡単にうつってしまいます。
パルボウイルスの検査は、通常は何かしら症状がなければ必須の検査ではありません。また、病状は4~6日の潜伏期ののち日に日に悪化していきますので、下痢があっても、1週間経っても元気があるなら可能性は低いでしょう。検査は直腸から採取した便を用いて10分ほどで判定が出ます。
⑦猫コロナウイルス(FCoV)感染症
新しく迎える猫が軟便や下痢をしている場合、まずは糞便検査を行い寄生虫がいれば駆虫、あるいは虫がいなければフードの変更や一般的なおなかのお薬などで治療をしてみます。しかし、それらの治療に反応せず軟便や下痢が続く場合は、猫コロナウイルス(FCoV)感染の有無の確認が必要となります。 FCoVは、以前は病原性の弱い猫腸コロナウイルス(FECV)と病原性の強い猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の2つの型があるといわれていましたが、近年、すべてのFCoVが全身感染を起こすとされ、最近ではFECVとFIPVを区別する考え方は議論の的となっています。
FCOV感染猫の多くは無症状か軽度の下痢を起こします。FCoVは猫が集団で生活している場所には高確率で蔓延(まんえん)していて、多くの猫がこのFCoVに感染しているといわれていますが、通常はほとんどの猫では数週間~数カ月でウイルスの排出は終わり、感染は終結します。しかし、一部の猫では持続感染して生涯ウイルスを排出することがあります。FCoV感染猫はストレスがきっかけとなって猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症することがあり、 これがFCoV感染の非常に怖いところです。FCoV感染猫の約12%がFIPを発症するといわれています。
つまり、FCoVに感染すると確率的には低くてもFIPの恐怖にさらされながら、ストレスを感じさせないように気を使って生活していかなければいけないのです。そして、FCoVは糞便や唾液中に排出され、非常に伝染力が強く、同じ建物内に同居していれば猫同士でほぼ100%感染するといわれています。
本当に最悪の事態としては、新しい猫、先住猫ともにFIPを発症して全滅…ということも理論上あり得る恐ろしいウイルスです。
しかし、FCoVに対するワクチンは国内には存在せず、感染を未然に防ぐすべは今のところありません。つまり、FCoVに感染している猫を先住猫と一緒にしない=飼わないか隔離して飼う、しかないのです。
したがって、これまで述べてきたFCoV感染のリスクを十分理解したうえで、それでも「この子を先住猫と一緒に飼う!」と決めた飼い主様にとっては、新しい猫ちゃんがFCoVに感染しているかどうかを調べる検査を行うかは賛否両論わかれる部分もあるかもしれません。
コロナウイルスの検査は、下痢パネル検査といって、上の猫パルボウイルスを含む、下痢の原因となりやすい数種類の病原体の検査のうちの1項目として検査可能です。検査費用が高いのが短所なのですが、これからの生活を考えれば決して軽視できない検査といえるでしょう。
またFCoV感染していても無症状なこともありますので、心配な方は軟便や下痢の症状が見られなくても、コロナウイルス感染の有無を確認するために新しい猫ちゃんの検査を行うのも一つかと思います。
以上、いずれにしても、新しく猫ちゃんを迎え入れる際は、いきなり先住猫と一緒にするのではなく、できれば約1カ月間ほどは別々の部屋に隔離し、病院で健康診断を受け、必要な検査を行い、先住猫は混合ワクチンを接種していなければ接種し、万全の態勢を整えてから一緒にすることをおすすめします。たしかに、何の検査もなしに先住猫と一緒にして、その後何の問題もなかったというケースも多々あるとは思いますが、万一、何か病気を持ち込んでしまってからではとりかえしのつかないことになりかねません。
