このブログは、さまざまな動物の病気を飼い主さんによりわかりやすく、退屈せずに知っていただきたいという思いから始めたブログです。
今回のテーマはリンパ腫というがんの病気についてご説明します。
1.ワンちゃんに最も多い悪性腫瘍 「リンパ腫」 について
今やワンちゃんも高齢化の時代を迎えています。7歳を越えるとシニアともいわれ、少しさびしい気持ちにもなりますよね。
今回のテーマは、ワンちゃんの死因の第一位といわれる腫瘍性疾患、いわゆる「がん」の中でも、ワンちゃんに最も多く発生する悪性腫瘍 「リンパ腫」 についてのお話です。ぜひこの機会に、リンパ腫について知って頂けたらと思います。
リンパ腫にはさまざまな分類があり、頭の中が混乱しやすいので、整理しながらできるかぎり詳しくわかりやすくお伝えしていきたいと思います!
2.リンパ腫ってどういう病気?
リンパ腫はひとことでいうと血液のがんです。血液中の細胞成分は大きく、赤血球、白血球、血小板に分かれ、そのうちリンパ球は白血球に属し、主に免疫に関わる働きをもっています。リンパ腫とは、このリンパ球が腫瘍(がん)化したものです。
リンパ球の腫瘍は大きく2つに分けられ、リンパ性白血病とリンパ腫があります。リンパ性白血病は腫瘍細胞が骨髄や血液の中で増えるため目に見える腫瘍のかたまりをつくりません。一方、リンパ腫はリンパ系組織の中で腫瘍のかたまり(しこり)をつくります。
リンパ腫はあらゆる年齢の犬で発生しますが、平均的には6~8歳といわれます。また、好発犬種としては、ゴールデンレトリーバーに発生が多いといわれています。
3.リンパ腫のさまざまな分類
リンパ腫には大きく分けて、①発生部位による分類、②悪性度による分類、③免疫学的な分類の3つの分類があります。
リンパ腫を理解するときにここが一番難しいポイントとなりますが、愛犬がもしリンパ腫になってしまったとき、これらの3つの分類を組み合わせてはじめて、その子にあった具体的な治療方針の決定、治療への反応性や予後の予測などが可能となりますので、頑張って整理していきましょう。
①発生した部位による分類
リンパ腫はその発生部位によって、発生頻度が多い順に、多中心型リンパ腫、消化器型リンパ腫、皮膚型リンパ腫、縦隔型リンパ腫、その他の型のリンパ腫などに分かれます。
1)多中心型リンパ腫
最もよくみられるタイプで、体表のリンパ節が腫れます。通常は全身のリンパ節が腫れますが、一ヶ所だけ腫れるということもあります。体表のリンパ節の腫れはしっかり場所を知っていれば、飼い主様でも気づくことができます。具体的には、
下顎(かがく)リンパ節 : あごの骨と首のさかい目あたり。人でいうと、下の一番奥歯のつけ根あたり。
浅頸(せんけい)リンパ節 : 首と胸のさかい目あたり。人でいう鎖骨のあたり。
腋窩(えきか)リンパ節 : わきの下
鼠径(そけい)リンパ節 : 一番後ろのおっぱいの近くの皮膚の中
膝窩(しっか)リンパ節 : 太もものうしろ(少しひざ寄り)
です。それぞれ左右1対ずつあります。ただし、下顎リンパ節は近くにだ液腺という似たような丸いしこりがもともとあるので、区別がよくわからなければ動物病院で確認してもらいましょう。
ちなみにこの写真の犬、僕の愛犬です 😆
2)消化器型リンパ腫
口から摂取したごはんが便として出てくるまでに通る消化管(口、食道、胃、小腸、大腸、肛門)のうち、腸管やその周囲の腸間膜リンパ節などに発生するリンパ腫です。
治療していてもなかなか治らない慢性的な下痢の症状がある場合、腹部超音波検査をはじめとした各種検査により、この消化器型リンパ腫が見つかることがあります。腫瘍が大きい場合は触診でおなかの中の腫瘍に気づくことがありますが、腫瘍が小さい場合は獣医師でさえも触診ではわからない場合もあるので、触診でわかる時点ではある程度、リンパ腫の病期が進行しているケースが多いといえます。
一般的にはやはり高齢になってから発症することが多いですが、ミニチュアダックスフンドに限っては、若齢(約3歳)でも発症する新たなタイプ(mott cellリンパ腫)が2008年から報告されています。
3)皮膚型リンパ腫
皮膚に発生するリンパ腫です。上皮向性型(菌状息肉腫)と非上皮向性の2つに分類されます。犬では上皮向性型が多く、口や口の中の粘膜に発生することもあります。また、体表リンパ節、肝臓、脾臓、骨髄などに進行することもあります。
4)縦隔(じゅうかく)型リンパ腫
この縦隔という言葉、なかなか聞きなれないと思いますが、例えば心臓をボール、肺を風船に例えると、胸の中には1個のボールと2個の風船がおさまっているイメージになります。その胸の中で、ボールと風船に囲まれてできたすきま・空間を縦隔といいます。その縦隔内にあるリンパ節や胸腺が腫瘍化したものが縦隔型リンパ腫です。
このリンパ節の腫れにより心臓や肺が圧迫されたり、胸水がたまることで呼吸困難などの症状を示すことがあります。
5)その他のリンパ腫
リンパ腫は上にあげた部位以外にも、眼球、脳・脊髄などの中枢神経、骨、膀胱、鼻腔、心臓、腎臓など、リンパ系組織以外のあらゆる部位に発生する可能性があります。
②悪性度による分類
リンパ腫は腫瘍細胞の悪性度により低悪性度、中間悪性度、高悪性度の3つに分類することができます。悪性度により抗がん剤の種類や投与開始時期、生存期間が異なってくるため重要な分類となります。
③免疫学的な分類
リンパ球にはTリンパ球とBリンパ球の2種類があります。後述する細胞診によって得られた細胞や病理検査のために切除したリンパ節などを用いた特殊な検査によって、T細胞性リンパ腫か、B細胞性リンパ腫かを分類することが可能です。一般的に、T細胞性はB細胞性より治療への反応が悪い傾向があります。
これらの3つの分類をあわせて最終的に、「リンパ腫の中でもどのようなリンパ腫なのか」を診断します。
(例:多中心型B細胞性高悪性度リンパ腫)
4.リンパ腫になったらどんな症状がでるの?
リンパ腫の約80%はリンパ節の腫脹が認められます。その他、食欲低下、元気消失、嘔吐、下痢、呼吸困難、体重減少など、リンパ腫だけには限らない不特定な症状が出るのが一般的です。
また、腫瘍細胞がつくり出すさまざまな生理活性物質が放出されることで起こる症状(腫瘍随伴症候群)として、リンパ腫の場合は高カルシウム血症に伴う多飲多尿や、血小板減少症に伴う出血などの症状を示すこともあります。
5.リンパ腫はどうやって診断するの?
リンパ腫が疑われた場合、まずは細胞診(針吸引検査)といって、細い針を腫瘍に刺してその針の中に採れたものをスライドガラス上にうすくのばし、それを染色したものを顕微鏡で観察するという検査を行います。
上で述べた悪性度による分類のうち、高悪性度リンパ腫の場合、この細胞診の検査によって診断が可能です。
また、その細胞診の検査で低悪性度リンパ腫が疑われた場合、最も腫れているリンパ節を全身麻酔下で切除して病理組織検査を行い、診断を確定します。
6.リンパ腫の治療法は?
リンパ腫の治療についてまず知っておいていただきたいことは、リンパ腫が完治することは残念ながらほとんどありません。
抗がん剤が効き、腫れているリンパ節が縮小したとしても、それは「寛解(かんかい)」といって、みために腫瘍がおさえられているにすぎません。完全寛解が得られ、腫瘍が完全に消えたように見えても、顕微鏡レベルでは腫瘍細胞が残っていて、また少し経つと腫れてきます。
犬のリンパ腫に対し、何も治療をしなかった場合の生存できる期間は約4~6週間といわれています。ただし、リンパ腫がどのステージの段階で見つかったか、どこの部位に発生したか、などによってその生存期間は大きく変わる可能性があります。
一般的にがんの治療というと、外科治療(手術)、放射線治療、抗がん剤治療が基本となりますが、はじめにもお話したとおり、リンパ腫は血液に関連したがんなので全身性の疾患です。そのためリンパ腫の治療は、抗がん剤治療が中心となります。
リンパ腫のタイプによってその有効性は様々ですが、一般的にはいくつかの抗がん剤を約半年間にわたってローテーションして投与していくプログラムが最も多く用いられています。
犬のリンパ腫の約80%を占めるといわれる多中心型高悪性度リンパ腫に対し、このプログラムを用いて治療した場合、寛解率(抗癌剤が効く確率)は約90%以上ともいわれますが、治療による平均的な生存期間としては約1年が目標となります。治療を開始してから2年以上生存できた場合はかなり治療がうまくいったといえるでしょう。
多中心型以外の高悪性度リンパ腫に関しては、抗がん剤治療の効果はさらに厳しいのが現状です。消化器型リンパ腫では抗がん剤が有効なケースは約50%程度で平均的な生存期間は2~3カ月、皮膚型リンパ腫も抗癌剤が有効な期間は約3カ月で平均的な生存期間はやはり数か月といわれています。
いずれのタイプでも、リンパ腫が発見された時点で何かしらの症状を示していた場合は、症状を示さなかった場合よりも生存期間が短い傾向にあります。
低悪性度の多中心型リンパ腫は進行が遅いため、症状が出ていないうちは抗がん剤の投与を行わずに無治療で経過観察を行っていくこともあります。低悪性度の場合は3年以上の長期生存する例も少なくありません。
7.リンパ腫を予防する方法はあるの?
除草剤やペンキなどの化学物質はリンパ腫発症と関連性があるといわれていますので、それらに近づけないようにするのは一つですが、残念ながらそれ以外にリンパ腫発症を予防する特別な方法がなかなかないのが現状です。
普段からからだ(特に体表のリンパ節)をよくさわるようにしてもし腫れているのに気づいたり、治療していても繰り返す、あるいはなかなか治らない下痢や皮膚病をはじめ、何かおかしな症状に気づいたら早めに動物病院を受診するようにしましょう。また、定期的(たとえば年に1~2回程度)にペットドックを受けることで早期発見につながるかもしれません。
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