今回この「なるほど診療室」というブログを始めようと思ったのは、たくさんある動物の病気を、飼い主さんによりわかりやすく、退屈せずに少しずつ知っていただきたいと思ったからです。
記念すべき第一回は「猫のカゼ症状」がテーマです。
よく猫のカゼ症状のことを「猫カゼ」といったりしますが、正式にはちゃんとした名前があります。
猫の上部気道感染症 😯
う~ん…、、猫カゼでいいかもしれません(笑)
この香取市には多くのノラちゃんがいるため、当院にもたくさんの猫カゼの症状の子が来院します。そうです、このカゼは猫ちゃん同士でうつるのです。そして、特にまだ免疫力が十分にない子猫ちゃんや母子免疫の弱くなった子猫ちゃん、お母さんの母乳を十分もらえなかった子猫ちゃん達がうつりやすく、治療をせずに放っておくと命に関わることもあります。
まず気道というのは、鼻や口から始まり、のど、気管、気管支、肺などの空気の通り道のことです。ですから、上部気道というと鼻、口、のど、気管などのことになります。猫カゼにかかっている多くの猫ちゃんは鼻水、くしゃみなどの症状を起こしています。そしてもう一つ、代表的な症状としてあげられるのが、目ヤニ、結膜炎などの目の症状です。
この猫カゼ、すなわち猫上部気道感染症の病原体として、最も主な犯人とされているのは、猫ヘルペスウイルスⅠ型と、猫カリシウイルスです。しかし犯人はこの2つのウイルスだけではなく、そのほかに細菌、クラミジアなどの共犯者もいます。つまり、ボスである猫ヘルペスウイルスⅠ型や猫カリシウイルスと、その共犯者である細菌やクラミジアなどのグループ犯罪によって起こされた複合疾患なのです。
そして、2人のボスのうち、ヘルペス派か、カリシ派か、そのどちらの組織かによって少し症状も異なってきます。
まず、ヘルペス派の特徴としては、くしゃみ、鼻水、よだれ、結膜炎などの症状を起こすのが特徴です。鼻水は重度になると鼻の穴をふさぎ、呼吸困難や食欲低下を引き起こします。
猫という動物は、人間や犬に比べ、味蕾(みらい)というベロにある味覚を感じる感覚器の数が少なく、人間や犬よりも味の感覚が劣っているといわれています。実は猫にとって重要なのは、味よりも「におい」なのです。ですから、鼻がつまってにおいがかげなくなるとそれだけで食欲が落ちてしまいます。さらに猫はどんなに苦しくてもギリギリまで口を閉じたまま鼻で呼吸をしようとする動物です。そのため、鼻がつまっている猫ちゃんはとても苦しいのです。口を開けている場合はそうとう苦しいということになります。
また、結膜炎の結膜とは、まぶたをひっくり返したときに見える赤い粘膜の部分ですが、結膜炎を起こすと、その粘膜部分が腫れ上がり、ときには中の眼球がみえないほどになってしまいます。この状態が続くと、上のまぶたの結膜と下のまぶたの結膜がくっついてしまい、さらには眼球表面の角膜もくっついてしまい、ひどいと眼球に穴が開き、失明することすらあります。
このヘルペス派、すなわち猫ヘルペスウイルスⅠ型の感染の場合、猫ウイルス性鼻気管炎ともいわれます。
また、このヘルペス派の手口としてもう一つの特徴は、潜伏感染をするということです。どういうことかというと、治療によっていったんヘルペスウイルスが減り症状の改善がみられても、体内から完全にいなくなるわけではなく、三叉神経節というところに隠れていて、猫ちゃんがストレスを受けたり、ステロイドの投与などによって免疫力が低下したときに、ここぞとばかりにまた出てきて反逆を起こし、カゼ症状をぶり返させるのです。つまり、再発を起こすことがあります。
う~ん、執念深いですね…。
カリシ派の特徴としては、くしゃみ、鼻水、流涙などの症状に加え、ベロなどに潰瘍(かいよう)をつくることがあげられます。人間でも口の中に潰瘍ができると痛いですよね。当然、食欲もなくなります。ひどいケースだと、肺炎を起こすこともあります。最近では、このカリスウイルスがパワーアップした、強毒全身性猫カリシウイルスの報告もあります。もう名前からしてやばそうですよね…。
これらに感染した猫ちゃんは鼻水、くしゃみ、目ヤニなどに大量のウイルスを排出しているので、一緒に生活している猫ちゃんには簡単に移ってしまいます。
ちなみに…、 安心してください!人には移りませんよ!
…
と、時代の流れに乗ってみたところで、猫の上部気道感染症という病気についてはなんとなくわかりましたでしょうか?
では、今度は治療法についてご説明します。
さきほど述べたようにこの猫カゼは、ウイルスが関与していることが多いので、ウイルスをたおす抗ウイルス薬が先決!?と思われるかもしれませんが、一般的にはまず細菌感染に対する抗生物質が投与されます。
おうちでのみぐすりを飲ませられるようであれば、錠剤ないし粉のおくすりがあります。直接口に入れて飲ませるか、ごはんに混ぜて与えます。
しかし、うちの子はおくすりが苦手…。飲ませられる自信がない…。
という場合は2週間効果が持続する抗生物質の注射もありますのでご安心を。
また、ごはんが食べられなくて脱水がひどい猫ちゃんの場合は、皮下点滴といって、注射で皮膚の下にラクダのこぶのような液だまりをつくってあげて、水分を補給することもあります。
また、結膜炎のひどい猫ちゃんでは、抗生物質含有の眼軟膏(目のぬりぐすり)を使用することで、細菌を減らすと同時に、上下の結膜が癒着(ゆちゃく)といってくっついてしまうのを予防します。
通常はこれらの治療でカゼ症状が軽減ないし回復することが多いですが、なかなか経過がよくないときはインターフェロンというおくすりを使うこともあります。
では、このインターフェロンとはいったいどんなおくすりでしょうか?
ウイルスが体内に感染し細胞に取り込まれると、その中でウイルスはタンパク質を合成し、次々に増殖します。
インターフェロンというおくすりは、これらのウイルスを直接攻撃するわけではなく、細胞(内の核)に作用してウイルスタンパクの合成を阻害し、その結果ウイルス増殖が抑制される、というおくすりです。
抗ウイルス作用のほかに、抗腫瘍作用、免疫調節作用などの作用ももちます。
本来インターフェロンは、ウイルス感染後に体内でもつくられるのですが、ウイルス量が多いと、体内のインターフェロンだけではウイルス増殖のブレーキが効かなくなるのです。そのため、外部からインターフェロンを投与することでその働きを助けるということになります。
それからこのおくすりのいいところはほとんど副作用がないのです。
じゃあ最初から抗生物質と一緒に使えばいいじゃん、
たしかにそうかもしれませんが、このおくすり、ちょっと高いのです…。
成猫に、規定量を投与しようとすると、体重によっては一回の注射で5000円以上かかってしまうこともあります。さらに、一回の注射で終了ではなく、しっかりとした効果を得るためには3日間連続で打つのが理想のプログラムとされます。
下手するとインターフェロン注射だけで、3日間で1万5000円…なんてことも。
それでいて、100%有効とは限らないのです。
しかし、実験的には、
猫ヘルペスウイルスや猫カリシウイルス感染症による鼻炎症状の猫に対する、インターフェロンの有効性としては約90%との報告もありますので、状態によってはやはりインターフェロンの使用を考えた方がいい場合もあります。
理想的には、インターフェロンの有効性は感染初期であるほど効果的といわれていますが、治療費のことを考えると、現実的には、抗生物質による初期治療で反応が悪い場合に金額的に許すのであれば、次のステップとして(あるいは最初から)早めにインターフェロンの使用を考えたほうがいいでしょう。
基本的には、3種や5種の混合ワクチンをしっかり接種していれば、これらのヘルペスウイルスやカリスウイルスの感染は阻止できることが多いのですが、まれにワクチンを打っているのにこの病気に感染してしまうこともあります。
それはなぜなのでしょうか?
人間のインフルエンザを考えてみてください。
毎年(?)、流行する型が変化しますよね?ですから、インフルエンザの予防接種を打っていても感染した型が違えば、インフルエンザにかかってしまうことがあります。
同じようなことが猫ちゃんにもいえるようです。
じゃあ、混合ワクチンを打っても意味がないのか…、というわけではありません。
事前にワクチン接種によって免疫をつけておけば、もし発症したとしても症状を軽くすることができるのです。
みなさん、ご自宅の愛猫ちゃん達に毎年混合ワクチンの接種はしていますか?
混合ワクチン接種は、飼い主さんが猫ちゃん達にしてあげられる愛情表現の一つといってもいいかもしれません。
当院では特に予約の必要はなく、ワクチンも常備してありますので、お気軽にご相談、ご来院を。
ただし、体質的にまれにワクチン接種のあと、食欲・元気低下、発熱、興奮、嘔吐などの症状を起こすことがあるので、なにかあった時にご相談やご来院できるように、午前中に打つことをおすすめしています。