【猫の乳腺腫瘍の特徴】
猫の乳腺腫瘍は約90%が悪性で、犬と比べて非常に予後が悪く、診断時にリンパ節や肺へ転移していることも少なくなく、根治の難しい悪性腫瘍です。発見から死亡までの期間は平均で10~12か月といわれます。
【性別と年齢】
未避妊の高齢(平均10~12歳)のメス猫に多く発生します。まれにオスに発生することもあります。
【臨床ステージ分類と予後の予測】
猫の乳腺腫瘍では、予後を予測するのにステージ分類がとても重要となります。そこで用いられるのが、世界保健機関(WHO)で定められているTNM分類と、それに基づく臨床ステージ分類です。
T:腫瘍のひろがり
N:リンパ節への浸潤状態
M:遠隔転移の状態
<TNM分類> <臨床ステージ分類>
まとめると、
ステージⅠ:リンパ節転移がなく、腫瘍直径が2cm未満の場合
ステージⅡ:リンパ節転移がなく、腫瘍直径が2~3cmの場合
ステージⅢ:腫瘍直径が3cm未満でも、リンパ節転移が認められた場合
リンパ節転移の有無に関わらず直径3cmを超えている場合
ステージⅣ:遠隔転移が認められた場合
となります。
そして、このステージ分類による予後に関するある報告では、
<臨床ステージによる予後予測>
という結果が得られています。
また、腫瘍サイズと生存期間の相関性が確認されており、特に腫瘍直径が3cmを超えてしまっているかどうかが重要となります。
3cmを超えた時点で転移がなかったとしてもステージⅢとなってしまい、根治の確率が低くなってきます。
肺転移などを起こしステージⅣに移行してしまっている場合は、余命は約1カ月となってしまいます。
<避妊手術の乳腺腫瘍に対する予防効果>
1歳未満での避妊手術による乳がん発症予防効果は約90%とかなり有効です。
大人になるにつれて徐々に予防効果は下がり、2歳を超えると予防効果はほとんどありません。
そのため乳腺腫瘍の発生リスクを下げるためには、早期、特に1歳未満での避妊手術を強くおすすめします。
【治療】
①外科治療
猫の乳腺腫瘍に対する治療の第一選択は外科手術です。犬では腫瘍の完全切除が可能ならば部分的な乳腺切除術も考慮されますが、猫では通常、領域リンパ節の切除を含めた片側乳腺の全摘出術が選択されます。両側の乳腺に腫瘍がある場合は片方の乳腺の全摘出術を行った1ヶ月後にもう片方の乳腺全摘出術を行います。(一度にやると術後の皮膚の張りがきつく呼吸困難を起こすため)
また、ステージⅢ以上で根治が難しい場合でも、腫瘍が自壊を起こしてにおいや出血、膿などが出ているときは、転移状況を考慮しつつ緩和的治療としてQOL(生活の質)改善のために腫瘍の部分切除を行う場合もあります。
<片側乳腺全摘出術の目的>
片側乳腺全摘出術の一番の目的はあくまで根治をねらうことです。根治的な手術による乳腺の除去は、病変の速やかな除去と、将来的な発生リスクの減少を期待できます。ステージが低いほど、根治の可能性が高くなります。
また、報告により差はあるものの、根治的な手術により無病生存期間や、生存期間の延長が期待できます。
腫瘍だけをくり抜いて切除しても腫瘍細胞の取り残しが出る可能性が高く、根治をねらう手術の場合は、片側(あるいは両側)乳腺全摘出術と領域リンパ節の切除が原則となります。
<術後の再発率は少なくない… >
実際には、片側乳腺全摘出術を行っても再発することは少なくなく、遠隔転移性の高さも含めると、多くの猫乳腺癌に対しては外科手術単独での根治は難しいといわれています。局所に再発が認められなくても、術後、肺やリンパ節などに遠隔転移が出てくることもあります。
局所に再発が認められた場合、原則的に再手術が推奨されますが、そのときの猫の全身状態や余命を考慮し、本当に再手術が第一選択なのか、飼い主様の希望と合わせて相談しながらその後の治療方針を決めていきます。
<避妊手術の同時実施>
避妊手術を同時に実施することで、術後の再発率を低下させたり、生存期間を延ばしたりという報告はありません。性ホルモンとの関連性がある腫瘍なので少し前までは乳腺切除と同時の避妊手術が一般的でしたが、前述した通り2歳を越えてからの避妊手術は乳腺腫瘍の発症を抑える効果はなく、乳腺腫瘍を発症している時点で余命もある程度限られていますし、麻酔時間も延びてしまうため、最近では同時の避妊手術をしない傾向もあります。
②化学療法(抗がん剤治療)
ステージⅢ以上、つまり腫瘍直径が3cmを超えている場合や、リンパ節や肺に転移が認められた場合、または術後の病理組織学的検査で悪性度が高かった場合は、外科手術後に補助的化学療法が推奨されます。
ある報告では、ステージⅢの乳腺腫瘍の猫のグループにおいて、外科手術単独の生存期間中央値が180日であったのに対し、術後にドキソルビシンを投与した群では生存期間中央値が416日であったという報告もあります。
ドキソルビシンは、基本的には3週間ごとに血管内に投与していきます。
全く副作用がないわけではありませんし、必ずしも効果が認められるとは限りませんが、術後に化学療法を行うことで生存期間が延び、ステージⅢの猫でも1年以上生きられる可能性もあります。