概要
猫のトリコモナス症は、Tritrichomonas suis(=Tritrichomonas foetus、トリコモナス・フィータス)といわれる原虫が小腸や大腸に寄生し、慢性の下痢を引き起こす感染症です。主に1歳齢以下の子猫で発症し、成猫でも不顕性(下痢を起こさず)に感染していることがあります。
病原体
感染経路
トリコモナスは猫の小腸(回腸)、大腸(盲腸・結腸)で増殖し、一部が糞便中に排出されます。猫の体内を離れても、条件が整っていると5日間ほど生存しており、この間に他の猫の体表に付着し、グルーミングの際に経口感染すると考えられています。
若齢時に多頭飼育を行っている環境下で感染し、2カ月~2年で自然に治癒することもありますが、その後、キャリア(=症状はないが、病原体を排出し続ける)となってその環境下での感染源となってしまう猫もいます。
糞便検査
成猫でもトリコモナスが認められることがありますが、圧倒的に1歳齢以下の子猫から検出されることがほとんどです。雑種猫より純血種の感染率が高いとの報告もあり、生まれた時から外に出たことがなくても感染していることは十分あり得ます。
症状
主に若齢猫に、慢性の大腸性下痢を引き起こし、下痢になったり治ったりを繰り返します。無症状、排便回数の増加、軟便、下痢など様々です。しばしば悪臭のある下痢便で、ときおり粘液や鮮血が混じります。
治療
現在、トリコモナス原虫に対する有効な薬剤はロニダゾールのみといわれており、一般的な抗原虫薬であるメトロニダゾール(商品名:フラジール)は無効とされています。しかし、メトロニダゾールの投薬により下痢の症状が軽減することも少なくはありません。
ロニダゾールは国内では認可されておらず、海外からの輸入が必要なため入手がやや困難なことと、副作用として神経毒の報告もあるため、投薬の際には猫を注意深く観察する必要があります。ロニダゾールを処方する場合、鳥の 粉剤しかありません。投薬期間は2週間ですが、1回の粉の量がかなり多いため、猫への投薬は実際にはかなり大変だと思われます。ロニダゾール投薬後も下痢が再発することもあります。
予防
若齢時に繁殖施設や保護施設などの多頭飼育環境下で感染し、無症状の猫もキャリアとなって伝播することが考えられるため、若齢時から完全に個別飼いすることによって予防が可能ですが、譲り受けた際にはすでに感染していることも少なくありません。