千葉‧⾹取市佐原の動物病院「オリーブペットクリニック」2014年12⽉開院!

オリーブペットクリニック

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犬の膀胱移行上皮癌

  • 犬の膀胱移行上皮癌

    膀胱の移行上皮癌とは?

    膀胱の移行上皮癌は犬の膀胱内に発生する悪性腫瘍の中で最も発生の多い腫瘍です。猫での発生はきわめてまれです。

    膀胱三角部(尿管が膀胱に開口する付近)での発生が多く,膀胱粘膜における乳頭状病変または膀胱壁の肥厚としてみられます。多くの症例でリンパ節や骨、肺などに転移する悪性腫瘍です。また腫瘍が尿管や尿道などに浸潤し尿路を塞ぐことで排尿困難や腎不全といった重篤な症状を引き起こし,死亡する原因となります。

     

    症状・診断

    初期の症状は、頻尿・血尿・しぶり・不適切な排尿(そそう)などであり,膀胱炎や膀胱結石の症状と非常によく似ています。抗生物質などの治療に反応が悪い場合は、膀胱腫瘍の可能性も含めて、超音波検査を行います。

     

    超音波検査

    膀胱内の状態を確認するのには、超音波検査が最適となります。膀胱のどの部位にどのくらいの大きさと深さで発生しているかを確認することができます。膀胱内に腫瘤病変を認めても必ずしも全てが移行上皮癌とは限りません。慢性膀胱炎による粘膜肥厚や,乳頭腫,平滑筋腫などの良性腫瘍の場合もあります。

    これらの良性病変と移行上皮癌は、画像検査のみでは推測はできても完全には鑑別できないため,膀胱に腫瘤(しこり)を見つけた場合は以下に挙げるさらなる検査が必要となります。

     

    細胞診

    一般的に細胞診というと注射針を刺してサンプルを採取する針生検を行うことが多いですが、膀胱移行上皮癌の場合、皮膚を介して針生検を行うとその針が通った穴に沿って腫瘍細胞が播種する危険性があり、膀胱腫瘍を疑う場合は皮膚を通しての針生検は禁忌となります。

    通常、尿道からカテーテルを膀胱内に挿入し、超音波で画像を見ながらカテーテル先端を病変部に誘導し、吸引をかけて腫瘍の一部を採取します。サンプルがうまく採取できない場合は、何度か同じ検査をするか、膀胱鏡を用いて直視下でサンプルを採取することもありますが、カテーテルで細胞を採取することができるケースも多いです。

    細胞診により異型性の強い移行上皮細胞が認められれば移行上皮癌を強く疑うことができますが,中には異型性に乏しい移行上皮癌も存在するため,画像検査と細胞診だけでは確定診断とならないこともよくあります。

    V-BTA検査

    犬の移行上皮癌腫瘍マーカーです。検査は採取した尿で行うことができます。V-BTA検査は犬膀胱移行上皮癌に対して感度(移行上皮癌に罹患している動物を移行上皮癌であると疑える割合)の高い検査ですが、移行上皮癌に罹患していなくても、尿路に疾患を抱えている動物では約半数程度が偽陽性となってしまうという問題点もあります。そのため、V-BTAが陽性であっても膀胱移行上皮癌と確定することはできず、あくまで移行上皮癌を疑うための補助的な検査となります。

     

    BRAF(ビーラフ)遺伝子検査

    2015年に犬の移行上皮癌と前立腺癌に特異的な遺伝子変異が報告されました。尿に含まれる移行上皮細胞の遺伝子変異を検出する検査で,高い感度と特異度を持った検査です。簡単に言うと、移行上皮癌や前立腺癌かどうかを確認する検査です。細胞診だけでは確定診断がつかない場合に、補助検査としてとても有意義な検査です。採取した尿の沈渣により検査します。

    BRAF遺伝子の変異が陽性の場合、ほぼ100%の確率で悪性腫瘍(膀胱腫瘍では移行上皮癌、前立腺腫瘍では前立腺癌)であると考えることができます。

    陰性の場合も、BRAF遺伝子変異を持たないものが20~30%ほど存在するため、悪性腫瘍を否定はできず、細胞診の検査と併せての判断が必要となります。

     

    治療

    一般的にがんに対する三大治療と言えば外科手術,放射線治療,抗がん剤治療ですが、

    膀胱移行上皮癌の場合、完全切除の難しい膀胱三角部での発生が多いことと、仮に完全切除できたとしてもその局所浸潤性の強さと遠隔転移率の高さから再発・転移を起こすことが少なくないことから、

    いずれにしても 抗がん剤治療 が必要となります。

    膀胱移行上皮癌に対しては、様々な抗がん剤プロトコールが研究され、今まではシスプラチンミトキサントロンという抗がん剤を使うプロトコールが一般的でしたが、

    最近の報告では、2週間に一度のビンブラスチンの静脈内投与とピロキシカム(抗炎症剤)の内服の併用による治療が、前者の抗がん剤を用いた成績とほぼ同様の結果が得られており、副作用も少ないため主流になりつつあり、当院でもこのビンブラスチンとピロキシカムの併用による抗がん剤治療を第一選択としています。

    抗がん剤による副作用としては、骨髄抑制、消化器症状(嘔吐・下痢)、脱毛(まれ)が一般的ですが、人の医療で行っている抗がん剤治療の副作用のイメージほど強烈ではないことがほとんどです。

    一般に、抗がん剤治療で使用する各薬剤の投与量は、おおむね入院治療が必要になる可能性が5%以下、治療による死亡率が1%になるように考慮されています。

    ビンブラスチンの副作用としては、主に骨髄抑制が生じます。ビンブラスチン投与後およそ1週間後に出ることがほとんどです。血液中の赤血球、白血球、血小板のうち、最も寿命の短い白血球(好中球)が最も影響を受けやすく、好中球数が減少している時期は体内に侵入する病原体に対する抵抗力が落ちます。好中球数が少ない場合、予防的な抗生物質の経口投与などにより通常は大きな問題になることは少ないですが、この時期に嘔吐・下痢などの消化器症状や発熱が同時に起こると、正常な腸粘膜バリアの破壊によって腸内細菌の侵入に対する生体防御能が低下しているため、敗血症の発症に注意が必要となります。

    しかし、ビンブラスチンでは嘔吐・下痢などの消化器症状が出ることは比較的少ないです。抗がん剤投与期間中は好中球数を常にモニターする必要があり、特に抗がん剤投与1週間後の血液検査は必須となります。

    ピロキシカムは長期使用により腎障害や、その効果に耐性が起こることがあり、最近では初期のみビンブラスチンとピロキシカムを併用し、腫瘍が縮小し、症状が落ち着いたら一旦ビンブラスチンのみによる単独治療に切り替え、効果が落ちてきたら再度ピロキシカムを再開するという使い方も提案されています。

    最近の報告では,ビンブラスチン単独による治療では,

    ①奏効率36%、臨床的有用率86%、無進行期間中央値122日

    ②奏功率23%,無進行期間中央値143日,生存期間中央値407日

    などの報告があるのに対し、

    ビンブラスチンとピロキシカムを併用した治療では,奏功率58%,無進行期間中央値199日,生存期間中央値299日

    というデータがあります。

     

    また、膀胱三角部に腫瘍が発生している場合、膀胱全摘出術を行うこともありますが、生存期間中央値は141~385日と報告されており、前述の抗がん剤治療と比べてすごく成績が良いというわけではなく、膀胱全摘出まで行っても再発・転移を起こすこともあります。それに膀胱がなくなってしまえば尿をためておくことができないので、基本的には尿がたれ流しの状態になります。

    手術を行う唯一のメリットとしては、ステージの進行度によっては膀胱全摘出により根治(腫瘍の完全な根絶)の可能性があるということです。しかし、いずれにしても術後の尿のたれ流しによる衛生管理を生涯行う必要があり、抗がん剤治療でも手術と同等の生存期間が得られているため、手術は決して第一選択の治療とはいえません

    しかし、最終的に抗がん剤治療でも腫瘍が制御できなくなった場合、最も問題となるのが排尿困難です。特に、尿管が開口する膀胱三角という場所に腫瘍が発生している場合、尿路閉塞により腎不全を起こし致命的となります。その場合、命をつなぎとめるために緊急的におなかなどに尿道を開口させる尿路変更などの救済的手術を行うことがあります。