新着情報

ーーーーー感染症ーーーーーー

猫伝染性腹膜炎(FIP)

2019年09月19日|

要約


猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルス感染が原因となって起こる免疫介在性の疾患で、特に集団飼育施設でよく認められます。ほとんどの猫は誕生後すぐに猫コロナウイルスに暴露しますが、そのほとんどは、無症状もしくは軽度の腸炎を示すのみです。

しかし、一部の猫、特に若齢の猫や多頭飼育環境下の猫では、猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症することがあります。

FIPを発症してしまうと有効な治療法は未だ確立されておらず、致死率はきわめて高いです。猫コロナウイルス感染猫のうち、12%程度がFIPを発症します。

FIPを発症する要因として、猫コロナウイルス感染猫へのストレスがきっかけと考えられており、それにより猫コロナウイルス猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)に変異を起こすと考えられています。

 

 

感染


FIPの発症要因となる猫コロナウイルスの感染源は主に糞便です。つまり、猫用トイレが主に感染場所となります。唾液中に猫コロナウイルス遺伝子が検出されることがあるので、食器の共有には注意が必要ですが、実際には食器の共有によって感染することはほとんどありません。ですが、一応念のため、食器は別にしておきましょう。

猫コロナウイルスに感染した猫と一緒に住んでいる場合(特にトイレを共有している場合)、ほぼすべての猫が猫コロナウイルスに感染します。

猫コロナウイルス感染猫の9頭に1頭(約12%)は、致死性の疾患であるFIPを発症します。

 猫コロナウイルスは、屋外や多頭飼育施設などありとあらゆるところで感染する可能性があり、実はほとんどの猫が一度は猫コロナウイルスに曝露したことがあるといっても過言ではありません。そのため、多くの健康猫が猫コロナウイルス抗体陽性を示しますが、ほとんどの猫はFIPを発症しません。つまり、猫コロナウイルスに感染しても、FIPを発症するとは限りません。また、便中に排出される猫コロナウイルスも陰転する(検出されなくなる)こともよくあります。

多頭飼育環境においてFIPが発生してしまった場合には、その集団でのFIP発症率も極めて高くなるという報告がある一方、、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)は糞便中に排出されることもなく、FIPは猫から猫への感染(水平伝播)は起きにくく、集団内でFIPが流行することはないとの記載もあります。(もしFIPが水平伝播するとしたら、猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)の感染が関与しているかもしれません。) 

FIPの発症要因となる猫コロナウイルスに感染しないように気を付けることでFIP発症を回避できるとされていますが、猫コロナウイルス感染猫と一つ屋根の下に暮らしている以上はほぼ感染は免れないため、多頭飼育下に一頭でも猫コロナウイルス感染猫がいる場合、現実的に他の猫が猫コロナウイルスへの感染を回避することは厳しいといえます。

 

FIPV体内変換説


 猫コロナウイルスのうち、胃腸炎を起こす猫腸コロナウイルス(FECV)が、ストレスが引き金となって、致死性の病原体である猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)に病原性変異を起こすといわれています。 

猫コロナウイルスに持続感染した猫がストレスを受けてから3~6週間後にFIPを発症し始めることが多いそうです。従って、ストレス要因を減らすことはFIPの発症をコントロールするうえで重要とされますが、ストレスを減らすと一口に言っても相手が猫である以上、なかなか実際には難しいところがあります。

猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)などの重複感染による免疫抑制も、FIP発症率を高める原因となります。

 

好発年齢


猫の年齢もFIP発症に関わる重要な要因です。

FIP発症猫の約70%が1歳齢未満の猫といわれています。しかし、高齢の猫でもFIPを発症することはあります。

 

症状


 FIPの病型は、多発性漿膜炎(腹腔や胸腔の浸出液貯留)と血管炎を特徴とするウェットタイプ(滲出型)と、各臓器における多発性肉芽腫性病変を特徴とするドライタイプ(非滲出型)の2つがあります。

 ウェットタイプの方が進行が速く、診断後、2週間~1カ月程度で亡くなってしまうことも少なくありません。

一般的な症状としては、抗生物質に反応しない発熱、沈うつ、食欲不振、体重減少、黄疸(白目や歯茎が黄色くなる)、おなかがふくれる、などが認められます。

ウェットタイプで胸水貯留が認められる場合は、呼吸困難を示します。

ドライタイプではどの臓器に病変が認められるかによって症状が異なります。腎臓に病変が形成された場合は腎腫大、消化管に形成された場合は嘔吐や下痢などの症状がみられます。また、ドライタイプでは、眼病変、すなわち、虹彩の色調変化、瞳孔異常、失明、前眼房出血などがみられることがあります。

まれに起立困難、痙攣発作、知覚過敏、行動異常などの神経症状を示すこともあります。

 

 

 

 

 

 

 

診断


FIPの生前診断は困難といわれていますが、ウェットタイプの場合は針吸引にて採取した胸水や腹水の性状やその液体中の猫コロナウイルスの存在の有無と、症状、血液検査所見、猫コロナウイルス抗体価などの所見を総合してほぼ確定診断がつきます。このとき採取した胸水や腹水が黄色を呈していることが多いです。

ドライタイプの場合は超音波検査で肉芽腫性病変がはっきりと確認できれば、その病変に針吸引生検を行い、そのサンプル中の猫コロナウイルスの存在の有無を調べることで診断がつくこともありますが、肉芽腫性病変が確認できない場合は、診断が困難なこともあります。

 

治療


現状、FIPに対して有効な治療法は未だ確立されていません。ステロイドの投与を中心とした対症療法が行われることが多いですが、決して有効とは言い難いものです。

他にも、トロンボキサン合成阻害薬、ステロイド+インターフェロン療法、シクロスポリンの高用量投与などが検討されていますが、どれも確固たる有効なデータは得られていません。

治療開始3日以内に何らかの改善が認められない場合、それ以上の治療効果は期待できないという報告もあります。

 

ワクチン


 FIPウイルスに対するワクチンはこれまで数多く研究されてきましたが、残念ながら有効なワクチンが確立されていないのが現状です。

 

予後


残念ながらFIPは今のところ不治の病で、FIP発症後の予後は不良です。特に、ウェットタイプの場合は進行が速く、診断後、数日~数週間で亡くなってしまうことも少なくありません。

一方、ドライタイプの場合、神経症状などが発現する前に診断・治療されれば1年間ほど延命できることもあります。

 

消毒


猫コロナウイルスは、猫の体外では比較的弱く、アルコール、クロルヘキシジン、次亜塩素酸、家庭用漂白剤、洗剤などですぐに死滅・失活されます。

しかし、乾燥した環境下では7週間失活しません。この間には、猫用トイレ、靴、手や服を介して間接的に感染する可能性がありますので、徹底的に消毒を行いましょう。

 

FIPを発症してしまった猫ちゃんの飼い主様へ… 」

FIPは純血種の若齢猫にも一般的にみられる疾患です。ペットショップから購入し、初めて猫を家族に迎え入れ、これからという時期にFIPが発覚し、成す術もなく、まもなくして亡くなってしまう、ということが実際にあり得る恐ろしい病気です。  

うちに連れて来てストレスを与えてしまったせいでFIPを発症してしまったのか…、それはちがいます。

おそらくどのおうちに行ってもFIPを発症していたことでしょう…。

それなのに何かの縁があってあなたのおうちに来た。あなたの家族になった。

自分を責めないでください。

反対に、「うちに来てよかったね」と思えるくらい、たくさん愛してあげてください。

それがきっと、その猫ちゃんが生まれてきた意味なのですか

ページトップへ