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動物の病気について

猫の慢性腎不全 治療薬のすべて

2019年11月16日|,

慢性腎不全の治療は多岐に渡ります

 

 

 

 

 

 

 

 

症状、検査所見、お薬の飲みやすさ(形状)、猫ちゃんの性格、費用、飼い主様の家庭環境などをもとに相談のうえ、以下にあげたたくさんのお薬の中からいくつか選択し、それぞれの猫ちゃんに合わせた処方を行うようにしています。

 


輸液療法( 皮下点滴)

慢性腎不全を起こしている猫では、多尿、食欲低下、嘔吐などの症状により体液量が減少し、脱水症状を起こします。脱水は腎臓の血流を悪くし、腎臓にさらなるダメージを与え、迅速に脱水の改善を行わなければ重篤な腎機能障害を引き起こします。

いったん水分の喪失が補正されても腎不全は完治することはないため、その後も絶えず体液は喪失し続けます。そのため慢性腎不全の猫は継続的な輸液療法が必要となります。

通院による皮下点滴も可能ですが、腎不全のステージによっては毎日の皮下点滴が必要なことも少なくなく、毎日の通院は様々な面で飼い主様にも負担が大きいため、皮下点滴のやり方を飼い主様に覚えて頂き、自宅での皮下点滴治療を行っていくことがほとんどです。

輸液は、主に乳酸リンゲル液が用いられることが多いですが、血液検査で血清カリウム濃度やカルシウム値が高値の場合は、生理食塩水を用いることもあります。

 

 

 

 


リン吸着剤

腎臓内には、「糸球体」といわれる、血液を原尿にろ過する場所があります。そこでのろ過率(糸球体ろ過率:GFR)が低下すると尿中へのリン排泄量が減少し、血中のリン濃度が増加します。血中のリン濃度の上昇は、様々な機序で身体に悪影響を及ぼします。血中のリン濃度を下げるための治療には、輸液療法(リンの排泄促進)食事療法(リン制限食)リン吸着剤の投与(リンの吸収抑制)などがあります。

リン吸着剤を使用する場合の選択肢として、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、塩酸セベラマー、炭酸ランタン、キトサンなどがありますが、この中で最も血清リン値を下げることができるものは水酸化アルミニウム製剤です。

しかし、水酸化アルミニウム製剤は人ではアルミニウム脳症の問題があり腎不全患者では禁忌になっていますし、犬でも長期投与により小赤血球性の貧血を引き起こす可能性があり、今では水酸化アルミニウム製剤がリン吸着剤として使用されることは少なくなっています。

炭酸ランタンは獣医領域での明確なエビデンスがありません。

ここでは、獣医領域で実際に使用されことの多い炭酸カルシウム製剤、キトサン、塩酸セベラマー製剤などのリン吸着剤を中心にご紹介します。

 

①炭酸カルシウム製剤

商品名:カリナール®(バイエル、サプリメント、パウダータイプ)

作用機序は、リンの吸着と、血中のカルシウム濃度を上げることによりリンを下げます。(体内ではリンとカルシウムの値の積が一定になるように調節されています。)

リン吸着剤としての効果は水酸化アルミニウム製剤より弱いですが、水酸化アルミニウムのような毒性はありません。炭酸カルシウムによる高カルシウム血症の誘発が懸念されるともいわれていますが、食事に混ぜ、かつ適切に投与すればその可能性はかなり低いといわれています。

しかし、腎不全によって、あるいは他の疾患によって高カルシウム血症をすでに起こしている場合は、念のため塩酸セベラマー製剤の方を使用します。血中カルシウム値の上昇は、腎臓の石灰化などにより腎不全悪化のリスクもあります。

反対に、腎不全により高リン血症を起こしている場合、低カルシウム血症を併発していることもあります(体内のリンとカルシウムの値の積は一定に調節されているため)。この場合、炭酸カルシウムを使用することで、低カルシウム血症を是正することができる利点もあります。

 

 

②炭酸カルシウム製剤+キトサン

商品名:イパキチン™(日本全薬工業、サプリメント、パウダータイプ)

キトサンと炭酸カルシウムの配合剤で、食物に含まれるリンと老廃物の両方を消化管内で吸着します。キトサンは血中の尿素を腸内に移動させて糞便に排泄させる効果をもちます。炭酸カルシウムについては、上記の通りです。

利点は無味無臭のパウダータイプなので、与えやすくフードの味を損ないません。サラサラでふりかけやすく、水にも混ぜやすくなっています。

欠点は少し量が多いことになります。

腎不全の猫ちゃんにイパキチン35日給与後、血清リン濃度35%減少、BUN値29%減少のデータがあります。

 

③塩酸セベラマー製剤

商品名:レナジェル®(人体用薬、錠剤、1日2回)

炭酸カルシウム製剤よりもカルシウム負荷のないリン吸着剤であり、カルシウム×リンの積値も抑制し、石灰化抑制効果が期待されます。血中カルシウム値の高い猫ちゃんではこちらのリン吸着剤の方がいいでしょう。人では便秘などの消化器系副作用が40%程度で認められることがあるそうですが、当院でレナジェル処方によって便秘が問題になった猫ちゃんは今のところいないように感じます。

 

④塩化第二鉄

商品名:レンジアレン®(エランコジャパン、サプリメント、パウダータイプ、1日1包を食事の回数に分けて給与)

鉄・ショ糖・でんぷんなどを原料とする、無味無臭の粉剤です。

食事中や消化管内のリンを吸着し便から排出する働きがあります。食事中のリンを吸着するので、1包を食事の回数に分けて食事と一緒に与えます。

1包0.25gと量が少ないため、給与しやすいのも特徴です。血中カルシウム値が高く、錠剤が苦手な猫ちゃんにもおすすめです。レンジアレンに含まれる塩化第二鉄が酸化する影響で、便の色が黒くなることがあります。また。まれですが下痢を起こすこともあります。

 

⑤活性炭

腎臓病などで腎機能が低下すると、老廃物を血液中から尿へと十分にろ過できなくなり、老廃物が血液中に蓄積してしまいます。蓄積した老廃物は、血液の循環で腸管に戻ります。
活性炭は、戻ってきた老廃物を腸管内で吸着し、便と一緒に排出させることで、腎機能をサポートします。

コバルジン(動物用医薬品、パウダータイプ)

クレメジンという石油系の活性炭を使用しており、無味無臭で、尿毒素や老廃物を選択的に吸着しますが、副作用として便秘や下痢を起こすことがあります。副作用が出ない子もいますが、もし便秘になってしまった子に使い続けると、嘔吐や食欲不振など、かえって体調を崩してしまうこともあります。

 

ネフガード(サプリメント、粒(錠剤)と顆粒の2種類)

主成分であるヘルスカーボンは植物を主原料とした自然派の活性炭です。多孔性(微小な穴が多数あいている)構造体で、強い吸着作用をもっています。

粒タイプは崩れやすく、溶けやすいので、すばやく与える必要があります。顆粒タイプは少しジャリジャリ感がありますが、粒タイプとどちらが与えやすいかは猫ちゃんの好みによります。

無味無臭で、コバルジンよりも便秘の副作用が起きにくいです。

 

 


腸内細菌の善玉菌を増やす「腸活」により慢性腎臓病の進行を抑える治療

最近、人医学でも注目されているのが、腸内細菌と慢性腎臓病の関係です。

腸内細菌は人や動物の腸内に常に生息している細菌であり、善玉菌と悪玉菌があります。そのうち悪玉菌は尿毒素といわれる、慢性腎臓病によってたまる体に有害な老廃物をつくり、これが慢性腎臓病をさらに悪化させます。そうすると、さらに悪玉菌が増え、尿毒素が増えるという悪循環に陥ります。

獣医領域でも比較的新しい腎不全の治療として、サプリメント等により腸内に善玉菌を取り入れる腸活により、善玉菌が窒素老廃物を栄養源として利用・代謝してくれることで、代謝された窒素老廃物が吸収されることなく排泄され、慢性腎臓病の進行を抑えてくれることが期待されます。

 

商品名:アゾディル™(全薬工業、サプリメント、カプセル錠、長径1.3cm、1日2回)

窒素老廃物を栄養源にして3種の善玉菌が腸内環境を整えてくれます。

一つのカプセルに150億個以上の生きた菌が存在します。

腸陽性カプセルとなっており、カプセルのまま与えることにより胃酸の影響を受けずに大腸まで生きた菌が届くので、できるだけカプセルのまま飲ませた方がいいのですが、欠点として約1.3cmと猫ちゃんにとってはやや大きいサイズなので、どうしてもカプセルのまま飲ませられない場合はカプセルを開けて、ウェットフードなどにかけて与えても海外では有効なデータが得られているそうです。その場合、脂質を含むものに混ぜて与えることで、より胃酸の影響を受けにくく、腸まで届く生菌数を増やせるようです。

他のデメリットとしては、抗生物質との相性が悪いことです。何らかの理由で抗生物質を経口投与しなければならない場合、抗生物質が、一緒に投与されたアゾディルの善玉菌まで消化管内で死滅させてしまう可能性があるため、頑張ってアゾディルを飲ませていても十分な効果が得られないかもしれません。

それでも抗生物質を服用しなければならない場合は、4~5時間以上間隔を空けて与えるといいそうです。

また、コンベニアという2週間効果の持続する動物用の抗生物質の注射を使用すると、腸が血液から吸収した抗生物質が多少効いてしまうかもしれませんが、投与ルートが別であることと、コンベニアの有効菌種とアゾディルに含まれる3菌種は完全には合致しないため、アゾディルの3種菌が完全に死滅する可能性は低いと思われます。

 

商品名:カリナール®(バイエル、サプリメント、パウダータイプ)

基本的にはアゾディルと同様のコンセプトのもとにつくられた、アゾディルよりも前に発売された腸活サプリメントで、こちらは乳酸菌が主な善玉菌として含まれています。善玉菌を腸に補うことで悪玉菌の増殖を抑え、さらに善玉菌の窒素物利用により消化管内の窒素性老廃物を低減します。 カリナール1とカリナール2を一緒に給与することで、リン吸着および窒素老廃物の吸収抑制とのコンビネーションによる相乗作用が期待されますが、現在は下記のカリナールコンボという、カリナール1とカリナール2の合剤も出ています。

無味無臭となっていますが、乳酸菌が入っているため舐めるとほんのりと酸味があり、猫ちゃんによっては嫌がる可能性もあります。

 

商品名:カリナール®コンボ(バイエル、サプリメント、パウダータイプ)

カリナール1のリン吸着作用と、カリナール2の腸内善玉菌による作用の両方を合わせもつサプリメントです。

カリナール1とカリナール2をあわせて飲むよりは、こちらのカリナールコンボの方が作用が一石二鳥で量も少なくて済みます。

 

 

 


腎不全の進行抑制が期待される新しい薬

商品名:ラプロス®(動物用医薬品、共立製薬、錠剤、1日2回)

動物用医薬品で初めて「腎機能低下の抑制」が効能・効果で認められた猫用の治療薬です。QOL(生活の質)改善度において高い有効性が認められています。例えば、食欲不振の改善、体重減少の抑制、活動性低下の抑制などです。

長期間の投薬を考慮した直径6mmの飲ませやすい小さな錠剤となっています。他のお薬に比べるとお薬代はやや高くなります。

作用機序はやや複雑で一言では説明できませんが、一応あげてみますと、①血管内皮細胞保護作用、②血管拡張作用、③炎症性サイトカイン産生抑制作用、④抗血小板作用などが主な作用となります。

慢性腎臓病は、腎臓の中の尿細管間質というところが線維化(簡単にいうと弾力がなくなり硬くなる)を起こし、そこから炎症が起こることで血流が悪化し、細胞が低酸素状態となり、するとさらに線維化を起こし、、という

線維化 ⇔ 炎症 ⇔ 低酸素状態 

悪循環により進行していきます。

ラプロスは上に挙げた①~④の薬理作用により、腎臓の尿細管間質内の血管を強くし、拡張し、微小血栓の形成を抑制することにより、腎臓の血流を増加させ、まずは「低酸素状態を改善」させます。

さらに、炎症性サイトカイン産生抑制作用により「炎症を抑制」します。

ラプロスは、このように様々な薬理作用によって腎機能低下の悪循環に歯止めをかけ、腎不全の進行をゆっくりにするお薬です。

研究結果からは、投薬開始から2カ月ほどしてから、飲ませていない群との明らかな差(食欲や体重の維持など)が表れてくるようです。

 

 


尿中への蛋白漏出を抑制する薬剤

慢性腎不全では蛋白尿(アルブミン尿)を見ることが多く、蛋白尿の検出は腎障害の目安であると同時に、蛋白尿自体が腎臓尿細管間質障害の原因あるいは増悪因子となり、蛋白尿を減少させることが腎不全の進行を抑制するものと考えられています。

蛋白尿成分が腎臓内の近位尿細管に取り込まれると炎症細胞の浸潤、活性化が促進され、腎不全が進行すると考えられています。

 

セミントラ🄬(動物用医薬品、有効成分:テルミサルタン、経口液剤、1日1回)

無味無臭のさらっとした液体です。0.5kg刻みの体重目盛りが表記されたシリンジが付属されていて、体重量のセミントラをシリンジに吸い、飲ませます。

直接飲ませるか、少量の食事に混ぜて投与しても大丈夫です。4kgの猫ちゃんで約1カ月で1本使い切ります。

 

 

フォルテコール(動物用医薬品、錠剤、バニラフレーバー、1日1回)

腎不全における蛋白尿発現のメカニズムは血液を原尿にろ過する糸球体の内圧上昇によるものと考えられており、フォルテコールは糸球体内の降圧作用の結果、蛋白尿を改善します。糸球体内圧は低下しますが、腎血流量を増加させることにより糸球体での原尿へのろ過率が維持されます。

猫が好きなバニラフレーバーとなっており、比較的投薬しやすいでしょう。

 

 


腎性貧血に対する治療

慢性腎臓病の猫の30~65%が、腎不全の悪化に伴って貧血を生じるといわれています。その主な原因は、赤血球の骨髄産生を調節する腎性ホルモンであるエリスロポエチンの産生が減少することと、進行した腎不全による尿毒症が赤血球の寿命を縮めることによるといわれています。

赤血球造血刺激因子(ESA)製剤による治療

エリスロポエチン産生の減少による赤血球の産生低下を補うために、遺伝子組み換え型エリスロポエチン製剤(ESA)による治療が腎性貧血を起こしている多くの猫に有効です。猫では、貧血の程度を表すヘマトクリット値(PCV)が25%よりも低下した場合、ESA療法が適応となります。

商品名:エスポ―(有効成分:エポエチン、週3回、皮下注射)

ヘマトクリット値が目標範囲の下限(25%程度が目安)に到達するまで週3回(1日おき)の注射(皮下投与)を行います。効果は通常3~4週間以内に認められます。

 

商品名:ネスプ(有効成分:ダルべポエチン、週一回、皮下注射)

遺伝子組み換え型人エリスロポエチン類似物質で、獣医療でも多く使用されています。ダルべポエチンの半減期(血中の薬剤濃度が半分になる期間)はエポエチンと比較すると犬では約3倍長いといわれ、そのため週3回ではなく、週1回のみの注射(皮下投与)で可能です。エポエチンよりも通院頻度が少なくて済むのも利点です。当院ではダルべポエチンの方をよく使用しています。

ヘマトクリット値が目標範囲の下限(25%程度が目安)に到達するまで週1回の皮下投与を行います。目標値に到達したらその後は投与量を20~25%減量するか、投与回数を2~3週間ごとに減らします。効果は2~3週間以内に現れることが多く、反応が現れた場合は3~4週間以内には目標のヘマトクリット値に到達することがほとんどです。猫での有効率は約60~65%といわれています。目標のヘマトクリット値に達したら、その後は投与回数を2~3週間ごとに減少させます。

当院では、最終的に約1カ月ごとに、減量した投与量で継続的に注射することでヘマトクリット値をある程度維持できていますが、完全にやめてしまうと数カ月後に貧血が再発することが少なくありません。

また、ESA療法により高血圧を起こすことがあるため、血圧には注意が必要となります。

 

プロラクト鉄(共立製薬、サプリメント、錠剤、直径7mm、1日1回)

人では上記のようなESA療法がうまくいかない一つの原因として、赤血球生成に利用可能な鉄の欠乏が指摘されています。鉄はヘモグロビンの生成および赤血球の働きに必要なもので、慢性腎臓病に陥っている猫の多くは、相対的な鉄欠乏の状態にあります。鉄剤はESAを投与されているすべての猫に投与すべきともいわれています。

プロラクト鉄タブは猫ちゃんが飲みやすいように魚味のフレーバーになっています。投与により便が黒くなることがあります。

 

 


腎不全の進行に伴う食欲低下に対しての食欲増進剤

ミルタザピン(商品名:レメロン、1日おき、錠剤)

人医療ではうつ病の治療に用いられていますが、近年は食欲刺激剤として人医学でも幅広く使用されており、獣医療でも同様に使用されています。

入院中の犬と猫について行われたある研究では、ミルタザピンの投与により80%以上の猫において食欲の刺激効果が認められたそうです。

腎不全の猫ちゃんは積極的に治療していても徐々に進行するとしだいに食欲が低下することがよくあります。そのような場合にも、ミルタザピンによる食欲増進効果は期待できます。

ただし、抗うつ剤ということもあり、薬理作用にノルアドレナリンというホルモンの分泌を促進する作用も含まれており、投与後に若干ソワソワしたり興奮したりという行動や性格の変化を伴うこともよくあります。お薬の効果が切れれば元に戻ります。

そうまでしてでもやはり、何とか食べて体重を維持するというのはとても重要なことで、腎不全治療中の猫ちゃんが食欲低下によりいったん体重が減ってしまうと、体重をまた盛り返すのはけっこう厳しいことが多いです。

食欲が落ちて体重が減り気味の猫ちゃんは積極的に投与を検討してみてもいいでしょう。

 

 


嘔吐に対して、制吐剤

マロピタント(商品名:セレニア、販売元:ゾエティス、皮下注射・経口投与、1日1回)

腎不全が進行すると嘔吐の症状もみられるようになります。マロピタントは嘔吐の症状を中枢から抑え、いくつかある制吐剤の中でも最も強力な制吐作用をもつ即効性・持続性のあるお薬になります。

しかし、副作用はほとんどありません強いて言えば、皮下注射をする際の注射部位の疼痛です。当院では、注射時に局所の濃度を薄めるため(注射時の痛みを緩和するため)、皮下点滴を投与しながら注射することも多いです。

 

 


腎性高血圧症に対しての降圧剤

高血圧は慢性腎不全の猫において一般的であり、腎性高血圧の原因となる正確な機序はまだ解明されていませんが、多くの要因が複雑に関わっていると考えられています。

腎性高血圧は、眼、脳、心臓、腎臓などの臓器にさらなる障害を起こしたり、典型的な高血圧による症状としては、網膜剥離や眼底出血を起こし失明を起こすことがあります。

アムロジピン(錠剤、1日1~2回)

カルシウム拮抗薬であるアムロジピンは、強い血管拡張作用をもち、高血圧の合併症としての眼底出血や網膜剥離、あるいは神経障害に対し降圧剤として使用されます。腎性高血圧の猫において、アムロジピンは血圧を20%以上低下させます。

 

 

がんとは

2019年10月19日|,

動物達も高齢化の時代となった今、最も多い死因が「がん(=腫瘍)」です。

がんとは、自分の体内に存在する細胞が自律的に無目的にかつ過剰に増殖する状態と定義されます。簡単にいうと、体内のある一群の細胞が、ある特定の部位でむやみやたらと増え、転移を起こし、その動物の命をむしばむということです。

がんは大きく二つに分けられ、リンパ腫や肥満細胞腫など自ら独立して機能できる細胞の腫瘍を独立円形細胞腫瘍、それ以外のものを固形がんと呼びます。固形がんはさらに分類され、上皮系細胞由来のものを「~癌」といい(例:扁平上皮癌)、 非上皮系細胞由来のものを「~肉腫」といいます(例:血管肉腫)。対して、良性のものは「~腫」といいます(例:脂肪腫)。

腫瘍が発見に至る約1cmほどの大きさになる頃、そのしこり内にはおよそ一億~十億個のがん細胞が存在するといわれています。

腫瘍の増殖曲線はS字状曲線を描くといわれ、まだ腫瘍が小さいうちは、その増殖スピードは速く急激な増殖曲線を描きますが、ある程度の大きさになるとその増殖スピードは緩やかとなります

人間同様、三大抗がん治療は、外科治療、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)となります。

外科治療放射線治療は局所のみの治療となりますが、まだ腫瘍が小さい初期のうちは根治がねらえます。腫瘍が転移を起こしてしまった場合は、局所のみの治療では対抗できないため化学療法が適応となります。ただし、リンパ腫の場合、造血器、いわゆる血液のがんで全身疾患ということになり、最初から化学療法が適応となります。

腫瘍にはステージ分類があり、初期は局所に限局するのみ、徐々に周囲組織やリンパ節へ浸潤し、やがて他の離れた臓器(腹腔内臓器や肺、骨髄など)へ遠隔転移を起こすようになります。当然、ステージが進行すれば、根治(腫瘍の根絶)の可能性は低くなります。

当院では腫瘍の治療にも力を入れ、外科治療、化学療法にも幅広く対応しておりますので、お悩みの方はお気軽にご相談下さい。

アレルギー性皮膚炎 ~入門編~

2019年10月19日|

まずはアレルギーを語るには欠かせない IgEについて知ろう


IgEとは、血液中に存在する免疫グロブリンといわれる免疫に関わるタンパク質の一種で、からだの中にアレルギーの原因物質(アレルゲン)が侵入してきたときにからだを守る働きをもつ抗体です。

 

 

犬アトピー性皮膚炎とは


ひとことでいうと、環境アレルゲンに対するアレルギーのことです。

例えば、花粉、、ダニ、カビなどで、食物アレルゲンによるアレルギー反応はアトピー性皮膚炎に含まれません。

犬アトピー性皮膚炎に特徴的な、腋窩(わきの下)、大腿部内側(内また周囲)、四肢の屈曲部における痒みを伴う慢性の皮膚炎が存在し、検査の結果、環境アレルゲンに対するIgEが検出された場合、アトピー性皮膚炎と診断されます。

環境アレルゲンが悪さをするピークは、それぞれ季節によって異なり、症状の程度に季節性がある場合は、アトピー性皮膚炎の可能性がより高いといえます。

 

 

食物アレルギーとは


環境アレルゲンが原因の犬アトピー性皮膚炎とは違い、食物アレルゲンが原因のアレルギーとなります。

症状の出方には大きく2つのパターンがあります。

 

1.目や口の周り、背中などに皮膚炎が出る典型的なパターン

→かなりの確率で食物アレルギーを疑うことができる。

 

2.犬アトピー性皮膚炎による皮膚症状と似ているパターン

→見た目だけでは、食物アレルギーなのか、アトピー性皮膚炎なのか区別することはできない。

 

また、食物アレルギーは、アトピー性皮膚炎と違って、

IgEの反応によるもの と リンパ球の反応によるもの 

の2つのメカニズムがあります。

したがって、食物アレルギーの可能性も疑われる場合、IgEとリンパ球の両方の検査を行わなければ見逃しを生じてしまう危険性があります。

 

 

アトピー性皮膚炎か食物アレルギーかを見分けるポイント


食物アレルギーに特徴的なサインとして、

①1歳未満から痒みがある

②季節を問わず、一年中痒い

③1日3回以上の排便

④目・口の周囲、背中に痒みがある 

があげられ、1つでも該当する場合、食物アレルギーの疑いをもつ必要があります。

反対に、1つもあてはまらず、でもやはり経過的にアレルギーが疑われる場合、犬アトピー性皮膚炎を疑う必要があります。

 

 

実際には、アレルギー性皮膚炎は3パターンに分かれる


①犬アトピー性皮膚炎

②食物アレルギー

③アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの混合型

 

 

痒みがない場合はアレルギーではない!?


 

アレルギーの場合は、ほぼ必ず痒みを伴います。

痒くないアレルギーはありません。

しかし、痒みの原因はアレルギーだけではなく、ノミやダニなどの寄生虫、微生物(細菌や真菌)なども痒みの原因となります。

アレルギー性皮膚炎の場合、皮膚のコンディションの悪化により、これらの病原体が増えやすい状態になっていますので、まずは基本的な検査により、これら(寄生虫や微生物)の有無を確認し、もしいた場合はそれらを治療したうえで、それでも痒みが続く場合は、いよいよアレルギーの可能性を疑っていきます。

 

 

アレルギーの痒みの特徴


アレルギーによる痒みが生じる部位はある程度決まっています。

腋窩(わきの下)、肘の内側、内また、四肢端(手や足の先)、肛門周囲、耳、目や口の周囲、背中です。

これらの部位に痒みを伴う場合、アレルギーの可能性が高くなります。

この中で、特に目・口の周囲と背中に関しては、犬アトピー性皮膚炎で起こることはまれで、多くが食物アレルギーによって起こります。

 

 

アレルギーを疑った際にすべきこと


痒みを伴う皮膚炎に対し、寄生虫や微生物などの病原体の有無を確認し、それらが除外されたうえでも痒みが残る場合、アレルギー性皮膚炎が疑われますが、その次は実際にはどのような検査をしたら、犬アトピー性皮膚炎なのか、食物アレルギーなのかを正確に分けられるのでしょうか。

 

①アレルギー検査

検査費用が高い(すべての項目を行うと4万円…ほどかかる 😯 )のがネックになりますが、保険に入っている方は保険対象になることもありますし、この検査をしなければ、結局何に対して反応しているのかがわからないので、憶測の範囲でアレルギーの治療をしていかなければいけません。

しかし、やはり費用的な問題でアレルギー検査が難しい場合は、②の除去食試験から実施してみるのもいいでしょう。

その後、やはり必要であれば、再度アレルギー検査の実施について検討してみてもいいと思います。

検査は、採血を行い、血液を検査センターに送るだけです。

当院が委託している動物アレルギー検査会社では、以下の項目について調べることができます。

特徴的な症状があって、IgE検査で環境アレルゲンに対するIgE値が上昇している症例は、犬アトピー性皮膚炎との診断となります。

IgE検査でどのアレルゲンにもIgE値の上昇がみられなかった場合は、犬アトピー性皮膚炎の可能性は低くなります。

(※上記の代表項目以外にも、環境アレルゲンは無数にありますので、完全には否定できません。ただし、上記以外の環境アレルゲンがアトピー性皮膚炎の原因となることは比較的まれであると考えられます。)

 

IgE検査とリンパ球反応検査で食物アレルゲンに対して、陽性域あるいは要注意域の値を検出したら、かなり高い確率で食物アレルギーと考えられます。

 

②除去食試験

検査結果からアレルゲンとして反応している食物が入っていない食事を与える食事療法のことを「除去食療法」といい、この食事療法により実際にアレルギーの症状が軽減あるいは消失するかを確認することを「除去食試験」といいます。

検査結果から正しく選んだ除去食のみを、他の食べ物を食べさせないようにしてきちんと与えていると、食物アレルギーだけが痒みの原因であった場合は早くて3週間目くらいから症状が改善してきます。

ただし、万が一、除去食と異なるものをちょっとでも食べてしまった場合には、目的の治療が行われていないことになり、治療効果の判定が難しくなってしまいます。

症状が改善した場合は問題ありませんが、期待したような改善がみられなかった場合、除去食試験がうまくいっていないのか、治療方針が間違っていたのか、判断することができなくなってしまいます。

 

 

犬アトピー性皮膚炎と食物アレルギーが混在していたら…


検査の結果、両者が混在しているタイプの場合、まずは除去食療法を行い、3週間ほどして除去食の効果が出てきて食物アレルギーが治まってきたら、痒みは少し治まってくるはずですが、ここで残った痒みが犬アトピー性皮膚炎による痒みと考えられます。

つまり、食物アレルギーに対しての食事療法と、犬アトピー性皮膚炎に対しての内科治療の両方を平行して行う必要があります。

 

ケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)

2019年10月18日|

概要

まだ免疫力の十分でない子犬が発症することの多い、咳を主症状とした感染性の気管および気管支炎のことです。

 

病原体

イヌアデノウイルス2型、

犬パラインフルエンザウイルス、

犬ヘルペスウイルス、

Bordetella bronchiseptica(気管支敗血症菌)、

マイコプラズマ

などの病原体の単独あるいは複合感染によって起こります。

Bordetella bronchiseptica(気管支敗血症菌)がネコに感染することはまれで、ケンネルコフといえば、一般的には子犬が罹患する伝染性の喉頭気管炎を指します。

 

症状

軽度のケンネルコフでは、短くて乾いた咳が特徴的で、3~10日間の潜伏期間の後に発症します。

気管を触診することによって咳が容易に誘発されます(コフテスト陽性)。

また、運動、興奮、首輪の圧迫などによっても咳が出やすくなります。

食欲・元気は通常ありますが、病原体の混合感染により子犬はより重度の呼吸器症状(痰(たん)を伴う咳、鼻汁排出など)を呈し、発熱や元気消失などの全身症状が出るようになり重症化すると、肺炎などにより死亡する危険性もあります。

 

細菌性肺炎の危険性

犬では、二次的な細菌性肺炎が発症することがあります。すでに慢性気道疾患または気管虚脱が認められている犬では、それらの慢性疾患が急性かつ重度に悪化する場合があり、動物におけるこの感染症に関連した症状が治癒するためには、長期間治療することが必要である。

 

感染ルート

多くの場合、ペットショップから購入したばかり、ブリーダーや動物愛護団体から譲渡されたばかりのことが多く、それ以外にも2週間以内にどこかに出かけたり、他の子犬や同様の症状を示す犬と接触したという経歴があることが多いです。

通常、感染後1週間以内に発症します。

 

診断

確定診断は多くの場合は困難で、

・年齢(若齢)

・ワクチン接種歴の有無(まだワクチンを打ったことがない)

・入手経路(つい最近まで多頭飼育施設にいた)

・感染犬との接触の有無

などを考慮したうえで臨床徴候から推測することで暫定的にケンネルコフと診断することがほとんどです。

X線検査では通常、正常あるいは軽度の気管支パターンといわれる所見がみられるのみで、診断の一助になることはあってもX線写真だけでケンネルコフとの確定診断はくだせません。

血液検査の数値はほぼ正常です。

 

治療

合併症のないケンネルコフは、時間が経てば自然治癒することが多いです。過度の咳によって起こる気道の継続的な刺激を最低限にするために、少なくとも7日間の安静、特に運動と興奮を避けることが必要です。

軽症の場合、薬物投与は必要なく、適度な温度と湿度の環境下で安静にすれば、7~10日以内に自然治癒するといわれています。

しかし、細菌性肺炎への重篤化を避けるため、慎重を期する、あるいは治療の必要ありと判断した場合には 抗菌薬気管支拡張薬 を使用します

また咳が持続性あるいは顕著であれば 鎮咳剤 も使用することもありますが、鎮咳剤は、咳が湿性の場合、聴診または胸部X線写真で肺に液体が貯留していることが疑われるような場合は投与すべきではありません。

噴霧療法(ネブライジング)も有効です。(抗生物質や気管支拡張剤などを気体状にし吸入させることで、直接、気管や気管支などの患部に薬剤を浸透させる治療です。)

投薬を行った場合、通常1週間以内に症状の改善が認められますが、治療は約2週間続けるべきといわれています。

 

■抗菌薬

広域スペクトル(多くの病原体に広く浅く効く)のものを選択します。

テトラサイクリン、マクロライド系、ペニシリン、セファロスポリン、クロラムフェニコールなどが有効です。抗菌薬は臨床徴候が消失してからさらに5日間、または少なくとも14日間投与します。

 

ステロイドは使用しません。Thrusfieldによる臨床試験では、単剤または抗菌薬との併用のどちらでも、ステロイド治療の利点を見出せなかったとの報告があります。

 

■気管支拡張薬

交感神経作動薬であるテルブタリンや、キサンチン系気管支拡張剤であるアミノフィリンやテオフィリンが使用されます。

後者のキサンチン系気管支拡張剤は、気管支拡張作用のほか、気道クリアランス(気道の粘膜にもともと備わっている、分泌物・異物・病原体などを口の方に運ぶはたらき)の改善抗炎症効果などがあります。

■鎮咳剤 

ブトルファノールが最も効果的で、その他デキストロメトルファン、コデインなどがありますが、使用頻度は高くありません。

 

予後

肺炎などの合併症がなければ良好です。

 

予防

混合ワクチンの接種と、動物の細菌への暴露を最小限にすることによって予防できることが多いですが、

たとえワクチンを打っていたとしても、注射型ワクチンの気道粘膜面における有効性は必ずしも確実ではないともいわれていますので、100%予防できるわけではありません。

犬の膀胱移行上皮癌

2019年10月12日|

膀胱の移行上皮癌とは?

膀胱の移行上皮癌は犬の膀胱内に発生する悪性腫瘍の中で最も発生の多い腫瘍です。猫での発生はきわめてまれです。

膀胱三角部(尿管が膀胱に開口する付近)での発生が多く,膀胱粘膜における乳頭状病変または膀胱壁の肥厚としてみられます。多くの症例でリンパ節や骨、肺などに転移する悪性腫瘍です。また腫瘍が尿管や尿道などに浸潤し尿路を塞ぐことで排尿困難や腎不全といった重篤な症状を引き起こし,死亡する原因となります。

 

症状・診断

初期の症状は、頻尿・血尿・しぶり・不適切な排尿(そそう)などであり,膀胱炎や膀胱結石の症状と非常によく似ています。抗生物質などの治療に反応が悪い場合は、膀胱腫瘍の可能性も含めて、超音波検査を行います。

 

超音波検査

膀胱内の状態を確認するのには、超音波検査が最適となります。膀胱のどの部位にどのくらいの大きさと深さで発生しているかを確認することができます。膀胱内に腫瘤病変を認めても必ずしも全てが移行上皮癌とは限りません。慢性膀胱炎による粘膜肥厚や,乳頭腫,平滑筋腫などの良性腫瘍の場合もあります。

これらの良性病変と移行上皮癌は、画像検査のみでは推測はできても完全には鑑別できないため,膀胱に腫瘤(しこり)を見つけた場合は以下に挙げるさらなる検査が必要となります。

 

細胞診

一般的に細胞診というと注射針を刺してサンプルを採取する針生検を行うことが多いですが、膀胱移行上皮癌の場合、皮膚を介して針生検を行うとその針が通った穴に沿って腫瘍細胞が播種する危険性があり、膀胱腫瘍を疑う場合は皮膚を通しての針生検は禁忌となります。

通常、尿道からカテーテルを膀胱内に挿入し、超音波で画像を見ながらカテーテル先端を病変部に誘導し、吸引をかけて腫瘍の一部を採取します。サンプルがうまく採取できない場合は、何度か同じ検査をするか、膀胱鏡を用いて直視下でサンプルを採取することもありますが、カテーテルで細胞を採取することができるケースも多いです。

細胞診により異型性の強い移行上皮細胞が認められれば移行上皮癌を強く疑うことができますが,中には異型性に乏しい移行上皮癌も存在するため,画像検査と細胞診だけでは確定診断とならないこともよくあります。

V-BTA検査

犬の移行上皮癌腫瘍マーカーです。検査は採取した尿で行うことができます。V-BTA検査は犬膀胱移行上皮癌に対して感度(移行上皮癌に罹患している動物を移行上皮癌であると疑える割合)の高い検査ですが、移行上皮癌に罹患していなくても、尿路に疾患を抱えている動物では約半数程度が偽陽性となってしまうという問題点もあります。そのため、V-BTAが陽性であっても膀胱移行上皮癌と確定することはできず、あくまで移行上皮癌を疑うための補助的な検査となります。

 

BRAF(ビーラフ)遺伝子検査

2015年に犬の移行上皮癌と前立腺癌に特異的な遺伝子変異が報告されました。尿に含まれる移行上皮細胞の遺伝子変異を検出する検査で,高い感度と特異度を持った検査です。簡単に言うと、移行上皮癌や前立腺癌かどうかを確認する検査です。細胞診だけでは確定診断がつかない場合に、補助検査としてとても有意義な検査です。採取した尿の沈渣により検査します。

BRAF遺伝子の変異が陽性の場合、ほぼ100%の確率で悪性腫瘍(膀胱腫瘍では移行上皮癌、前立腺腫瘍では前立腺癌)であると考えることができます。

陰性の場合も、BRAF遺伝子変異を持たないものが20~30%ほど存在するため、悪性腫瘍を否定はできず、細胞診の検査と併せての判断が必要となります。

 

治療

一般的にがんに対する三大治療と言えば外科手術,放射線治療,抗がん剤治療ですが、

膀胱移行上皮癌の場合、完全切除の難しい膀胱三角部での発生が多いことと、仮に完全切除できたとしてもその局所浸潤性の強さと遠隔転移率の高さから再発・転移を起こすことが少なくないことから、

いずれにしても 抗がん剤治療 が必要となります。

膀胱移行上皮癌に対しては、様々な抗がん剤プロトコールが研究され、今まではシスプラチンミトキサントロンという抗がん剤を使うプロトコールが一般的でしたが、

最近の報告では、2週間に一度のビンブラスチンの静脈内投与とピロキシカム(抗炎症剤)の内服の併用による治療が、前者の抗がん剤を用いた成績とほぼ同様の結果が得られており、副作用も少ないため主流になりつつあり、当院でもこのビンブラスチンとピロキシカムの併用による抗がん剤治療を第一選択としています。

抗がん剤による副作用としては、骨髄抑制、消化器症状(嘔吐・下痢)、脱毛(まれ)が一般的ですが、人の医療で行っている抗がん剤治療の副作用のイメージほど強烈ではないことがほとんどです。

一般に、抗がん剤治療で使用する各薬剤の投与量は、おおむね入院治療が必要になる可能性が5%以下、治療による死亡率が1%になるように考慮されています。

ビンブラスチンの副作用としては、主に骨髄抑制が生じます。ビンブラスチン投与後およそ1週間後に出ることがほとんどです。血液中の赤血球、白血球、血小板のうち、最も寿命の短い白血球(好中球)が最も影響を受けやすく、好中球数が減少している時期は体内に侵入する病原体に対する抵抗力が落ちます。好中球数が少ない場合、予防的な抗生物質の経口投与などにより通常は大きな問題になることは少ないですが、この時期に嘔吐・下痢などの消化器症状や発熱が同時に起こると、正常な腸粘膜バリアの破壊によって腸内細菌の侵入に対する生体防御能が低下しているため、敗血症の発症に注意が必要となります。

しかし、ビンブラスチンでは嘔吐・下痢などの消化器症状が出ることは比較的少ないです。抗がん剤投与期間中は好中球数を常にモニターする必要があり、特に抗がん剤投与1週間後の血液検査は必須となります。

ピロキシカムは長期使用により腎障害や、その効果に耐性が起こることがあり、最近では初期のみビンブラスチンとピロキシカムを併用し、腫瘍が縮小し、症状が落ち着いたら一旦ビンブラスチンのみによる単独治療に切り替え、効果が落ちてきたら再度ピロキシカムを再開するという使い方も提案されています。

最近の報告では,ビンブラスチン単独による治療では,

①奏効率36%、臨床的有用率86%、無進行期間中央値122日

②奏功率23%,無進行期間中央値143日,生存期間中央値407日

などの報告があるのに対し、

ビンブラスチンとピロキシカムを併用した治療では,奏功率58%,無進行期間中央値199日,生存期間中央値299日

というデータがあります。

 

また、膀胱三角部に腫瘍が発生している場合、膀胱全摘出術を行うこともありますが、生存期間中央値は141~385日と報告されており、前述の抗がん剤治療と比べてすごく成績が良いというわけではなく、膀胱全摘出まで行っても再発・転移を起こすこともあります。それに膀胱がなくなってしまえば尿をためておくことができないので、基本的には尿がたれ流しの状態になります。

手術を行う唯一のメリットとしては、ステージの進行度によっては膀胱全摘出により根治(腫瘍の完全な根絶)の可能性があるということです。しかし、いずれにしても術後の尿のたれ流しによる衛生管理を生涯行う必要があり、抗がん剤治療でも手術と同等の生存期間が得られているため、手術は決して第一選択の治療とはいえません

しかし、最終的に抗がん剤治療でも腫瘍が制御できなくなった場合、最も問題となるのが排尿困難です。特に、尿管が開口する膀胱三角という場所に腫瘍が発生している場合、尿路閉塞により腎不全を起こし致命的となります。その場合、命をつなぎとめるために緊急的におなかなどに尿道を開口させる尿路変更などの救済的手術を行うことがあります。

 

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